Frame ON

【海底密室】
  評価点:80点  刊:徳間デュアル文庫  著:三雲岳斗  絵:大本海図
   読み応えたっぷりだった。じっくりと練られた殺人劇や、そのトリック。どこか常識を疑ってしまうような、些細な殺意。後書解説にあるように、「海底密室」のタイトルに恥じない「孤独」を見事に描ききった作品でした。
 と、言うわけで。『M.G.H』の姉妹作品とも呼ばれる海底密室です。相変わらず事細かな情景描写が美しく、人間の心理が練り込まれた作品でした。ただ、これはM.G.Hよりもさらに専門的な科学的考察が入ってきている為、普通のミステリーみたいな「発想力」だけでは先の展開を読めないと言う意味では、ミステリーと言うよりもSF色が濃いと思う(後書の解説では「SFミステリーでは無くミステリーである」と断言されちゃってるけど。根本的に「SF」の何たるかが解かってないだけなのかな?俺は)。てなワケで、理工系の人は是非とも一度目を通しておきましょう。未来の科学を担って行く以上、避けては通れない現状と思想を練り込んでいますよ。
 これ、読み終えた後思ったけど、続編出そうで楽しみです。遊(ゆとり)が過去に出会った事件って、一体何なのかな?
 あと、この作品を書くに当たって三雲岳斗先生が参考にした文献。多いって、貴男……。「巨大ロボット誕生」なんて資料、どこで使ったんですかァ〜〜?(笑)
 最後に。これは何も海底密室だけに限らず、ミステリー全体に言いたいんですが。「殺人事件の直後で、爽やかに終わらないで下さい」――直後だから終わりたいのかもしれないが。殺人事件に関わった事の無い俺には何とも言えない。
PS:最後の謎解きで遊が「水が反磁性体であるのは御存知でしょうが」と言っていた。知らないって、普通……。

【鏡よカガミ!?】
  評価点:45点  刊:スーパーダッシュ文庫  著:丘野ゆうじ  絵:壱河きづく
   ん〜〜。ストーリーに盛り上がりも無く盛り下がりも無く、ただただ平坦に物語だけが綴られているような、面白くなくつまらなくなく、な作品でした。まぁ、現実に作中と同じような事件が起きて俺自身がその事件の渦中に居たならば、恐らくは一ノ瀬いちのせ日守かがみ少年の取った契約への行動は、無知なる蛮勇とは言え「凄い!」と感動できる事でしょう。が、小説は読者にとって所詮はフィクションなのです。ミステリー作品で「現実に同じような事件が起きた時、脇役(見ず知らずの他人とか)の一言から事件解決の糸口を見付けられるか?!」の問いには NO であろうと、ミステリー作品の中でその一言が際々きわきわに際立っていたら、読者に看破されてしまうようなものです。ようは、「現実にはどうか?」ではなく、「作品としてどうか?」なのです。
 何故今ここでそんな根本的な事を述べるかと言いますと、単刀直入に言います。「他に言う事が無かったから」です。だって、ストーリーなんて「雑魚い中学生が不思議な力を手に入れて、悪魔(?)を倒す」だけの作品なんですよ?その中に何か陰謀めいた何かを臭わす要素も無いんですよ?中学生の過去に重いストーリーがあるワケじゃないんですよ?主人公が物語を通して成長するワケでも無いんですよ?猫耳少女に萌えるワケでも無いんですよ?そして俺はロリコンじゃないんですよ?これでどうやって何を語れと?!
 まぁ、怒った所でどうしようも無いんで、この程度で終わります。最後に、読み始めれば最後まで休まず読めるので、電車の中の時間潰しや寝る前の催眠誘発剤に是非一度お使い下さい。

【ガープス・百鬼夜翔リプレイ 暗夜に迷える鬼よ
  評価点:70点  刊:富士見ドラゴンブック  著:友野詳/グループSNE(監修:安田均)  絵:あるまじろう
   流石は友野詳ってところですかね。マスタリングが上手です。臨機に応変出来る対応は、俺にはとてもじゃ無いけど真似できません。いや、高校時代に数度だけですけどGMした事があるんですが……これが中々、上手に出来ないと言うかまともに出来ない。難しいんですよね。
 自分の過去の暴露論は捨て置いて、内容内容。まず、「百鬼夜翔」ならではの世界観でのリプレイが、潔く展開されていた。ただ「戦闘する」だけでは無く、戦闘に入るまでのシミュレーション的要素も、戦闘を回避する為の駆け引きじみた対話も、これはこの百鬼夜翔の独特さが遺憾無く発揮されていた。勿論、Sword Worldやロードス島や、パワープレイなどのTRPGでも、戦闘までのアドベンチャー、駆け引き、その他諸々の要素は味わえる。しかし、やはりどこかで「PCは人間(もしくはそれに準ずる亜人)、敵はモンスター」と「割り切れる」所があるんですよ。でも、この百鬼夜翔は違います。「PCは妖怪、敵も妖怪」。割り切れますか?普通は、無理です。だからこそ戦闘を回避するのも、刃を交えるのも、独特な雰囲気を醸し出しているのだと思う。そしてそれを、GMだけではなくプレイヤーも充分理解している。だからこそこの独特な世界観を崩さず、潔く表現出来ているのだと思う。
 見所は、ジョニーの笑えないジョーク。と、それに思わず噴き出したワヤン。あと、毎回毎回活躍の場から離れている雷蔵。よくキレる桐子。可愛らしさ爆発の麦。って、全PCかい。思わず独りトゥッコミ。
 一つのリプレイ作品としても質が高いですが、マスタリングのお手本としても読める、一石二鳥なリプレイ集でした。

【ガープス・百鬼夜翔リプレイ 黎明に眠れる鬼よ
  評価点:55点  刊:富士見ドラゴンブック  著:友野詳/グループSNE(監修:安田均)  絵:あるまじろう
   アクのあるキャラクターが新登場。大豆だいずおさむ門木もんき拓也たくや。でも、あまり魅力的では無かったです。それよりも、暗夜に眠れる鬼よ小説版から引き続き登場して来たキャラクターの方が魅力的。
 それはそれとして、GURPS百鬼夜翔のリプレイです。『人魚の叫び』『ラインに流れる真紅の血』『支配の根はひそやかにひろがる』の三本から成るリプレイ。登場するPCが毎回変わって、それはそれで面白かったです。
 人魚の叫び:登場PCは、プライド高い "豆腐妖怪" 大豆納、バリ島出身の "精霊サマール" イ・ワヤン・ダムディ、その妹 "精霊ガマン" ニ・ルゥ・ハユナ、ジョニーの愛弟子(?)"魔女" 星野ひかり、時代錯誤な軟派師 "狒々" 門木拓也。カラオケボックスに捕まっていた "ローレライ" の少女を助ける為に事件を追った一行だったが、その展開がやや「ゴリ押し」感がありましたね。読んでいて、展開があまり面白くなかったです。でも、"真っ二つ男" カルヴィーノ男爵は笑えた。
 ラインに流れる真紅の血PCは、妖魔夜行シリーズから登場の怖いお姉様 "濡れ女" 九鬼くき未亜子みあこ、そのお姉様に心底傾倒のホテル <スーリエ・ルージュ> "赤い靴履いてた女の子" 朱音あかね夕姫ゆうき嬢、その金魚の糞こと "招き猫" 三浦真幸、引き続き登場イ・ワヤン・ダムディ、アメリカ生まれの気さくな "プレイングカードの付喪神" ジョニー・ワンダー。畳み掛けるようなジョニーのシケギャグに、思わず笑ってしまう自分にちょっと自己嫌悪。"吸血鬼" のフリーダ&バーベラ姉妹が良い感じにダメ人格していました。GMも演技頑張ってるなァ、って感心。
 支配の根はひそやかにひろがる:引き続いての登場は、朱音夕姫、三浦真幸、イ・ワヤン・ダムディ、ジョニー・ワンダー、他の登場PCとして、可愛い可愛い "かまどの付喪神" 日野山ひのやまむぎ"雷神ヴァーナ" 鳴神雷蔵、真幸が戦力外通知された代わりに中途参戦した "抜け首とろくろ首のハーフ" 名執なとり桐子とうこ。以上。ジョニーの陽気なアメリカンジョークが相変わらず微妙な笑いをもたらして、麦の天然が微笑を誘います。「胸のかまどから炎を出して攻撃しながら、燃えている手でぽかぽかします。温めるっていう意味じゃないですよ?」って――すみません、可愛いすぎます。
 全体としては「今一」感は拭いきれなかったですが、プレイヤー達が良い味を出していました。特に麦ちゃん。……ヤバいや、これじゃロリコンだ。

【ガープス・百鬼夜翔リプレイ 黄昏に狂える鬼よ
  評価点:45点  刊:富士見ドラゴンブック  著:友野詳/グループSNE(監修:安田均)  絵:あるまじろう
   黎明に眠れる鬼よに引き続き、3本仕立てのリプレイです。各々『鴨の川原に鬼影が騒ぐ』『富士の樹海に悪夢が踊る』『ルート666に凶魔が走る』。
 鴨の川原に鬼影が騒ぐ"釜戸神" & "人間" 波田 洋大のLove2リプレイが読めるのは富士見ドラゴンブックだけ!なセッション(←言い過ぎ)。妖怪ハンター達の出生(?)の秘密を握るセッションでした。まぁ、「針」がどうこうって言う所よりも、"茨木童子" の橋本 姫子が、妖怪としての衝動に抗え切れずに本性を現すシーンが印象的。こう言う題材を適宜選択し、そして使いこなせるのが、友野 詳と言う人間のGMとしてのスキルなんだろうなぁと感心。あと、狙ったようなファンブルを出す雷蔵も素敵です。
 富士の樹海に悪夢が踊る"抜け首" "轆轤ろくろ" のハーフ・名執なとり 桐子 & "電子マスコット"・エニグマのLove2リプレイが読めるのは富士見ドラゴンブックだけ!なセッション(←言い過ぎ)。――このセッションに関しては、特に言う事は無いです。面白くも無いけど、つまらなくも無い。そんな空気みたいなセッション。
 ルート666に凶魔が走る"濡れ女" 八環 未亜子 & "鴉天狗" 八環 秀志のLove2リプレイが読めるのは富士見ドラゴンブックだけ!なセッション(←言い過ぎ)。――今回はこんな話ばっかりかぁ? "早坂人形" のガブリエル・早坂と、"早坂人形" ミカエル・早坂/"鋼鉄の処女アイアン・メイデン" エリサ・メイデンの関係が少し面白かった。G早坂とM早坂は、出自は全く同じだし、エリサもエリサで、"早坂人形" と同じ拷問道具の出自だし。出自は同じでも、出会いの違いからか環境の違いからか、三人はそれぞれに別の道を歩いてしまい、その互いに相容れぬ道が交わったが故に争わねばならない……。そんな、宿命めいた部分に、これまたGM友野の技量を魅ました。
 まぁ、セッションのストーリー自体はそれ程でもないんですが、その根幹となる部分の選択に、GM友野の腕を見せ付けられた、ってところですかね。曖昧な感想。

【キノの旅 III ――the Beautiful World――
  評価点:90点  刊:電撃文庫  著:時雨沢恵一  絵:黒星紅白
   『キノの旅』のシリーズ三作目。この作品、電車の行き帰りの暇潰しとして読む程度の作品ではありません。もっと落ちついた場所で――例えば、自分の部屋とか――心を静めて読み耽る物です。暇潰し程度で終わらせるだけでは、勿体無いです。俺も珍しく、ゲームするのもそっちのけで、全部読み干してしまいました。
 内容は、人間のキノとモトラドのエルメスの旅を描いた短篇集。キノとエルメスは、色々な国を旅して回る旅人。色々な国には、色々な人がいる。我々の世界から見ると、どこか『ズレ』ている人々が。キノは、そんな人々の国に、三日だけ滞在しては去り、また次の国を目指して、あてども無く旅して回る渡り鳥。
 『どこか取り留めの無い話。しかし、何かが心に引っ掛かる話。作品から訴え掛けられるのではなく、読んだ後で、何かを考えさせられる作品』。俺は、この『キノの旅』をこのように受け止めている。
 最後に、カバーイラストのキノが色っぽいのが良かった。黒星先生に乾杯!!

【キノの旅 IV ――the Beautiful World――
  評価点:80点  刊:電撃文庫  著:時雨沢恵一  絵:黒星紅白
   『キノの旅』のシリーズ四作目。短編が全十一話。一作一作の長さが非常に短いので、とても読み易い。
 今回も例に漏れず旅人キノとモトラド(注・二輪車。空を飛ばない物だけを指す)エルメスとが、色々な国を旅して回る。今回の旅は、何だか「誇張された現実の社会」を皮肉っているような作品が多かった感がある。
 キノとエルメスの相変わらずな淡々としたやり取りが非常に良い味出してます。

【キノの旅 V ――the Beautiful World――
  評価点:75点  刊:電撃文庫  著:時雨沢恵一  絵:黒星紅白
   『キノの旅』のシリーズ五作目。面白いのですが、何気に点数が少しずつ下がってきている事にお気付きでしょうか?つまらなくなっているのではありません。ただ、面白さが平衡状態に入っている為、少々飽きが入ってきています。少々気合いを入れて欲しいなァと、いつも通りの自分を棚上げ我が侭をホザいてみました。
 今回の見所は「英雄達の国 -No Hero-」「英雄達の国 -Seven Heros-」。何て言うのか、もう救いようの無い話ですね。守る必要の無いものを守る為に、自らの命を枯らす。七人の英雄は、果たして――幸せだったのでしょうか?
 もう一つ。「店の話 -For Sale-」。あの店員さんの商品は、売れる日が来るのだろうか?出きる事なら来ないで欲しいですね。
 他には「用心棒 -Stand-bys-」「塩の平原の話 -Family Business-」がお勧め。残りは……まぁ、適当に楽しんで下さいませ。

【キノの旅 VI ――the Beautiful World――
  評価点:70点  刊:電撃文庫  著:時雨沢恵一  絵:黒星紅白
   ベルギーではキノの旅は発売していないのでしょうか?いや、どうでもいいのですが。
 今回は、時事ネタには少々離れている感もありますが、そう言った出来事を皮肉げに語っているような作品で構成されています。
 今回は全部で12話。印象に残ったお話から適当に感想を垂れ流させていただきます。
 第四話「長のいる国」 師匠、格好良いです。惚れます。手配書が出回っている男を相手に一歩も引かない交渉術がとても好きです。男の必死の説得にも全く心動かさず、結局お宝を全て手にするくだり――交渉じゃねェーー!!!とか叫んじゃいそうですが。そんなオニのような師匠ですが、それはそれで萌えーとか言ってみたり。所でこの男、今後師匠の右腕――は無理としても、師匠の左腕くらいの役には立つようになるのでしょうか?
 第八話「祝福のつもり」 お話はキノとエルメスではなくシズと陸(犬の名前)に移ります。時系列的には、キノに出会う以前のようです。幼い少女を金銭売買してシズ様ウッハウハ!です。買われた少女は勿論陸の幼なじみなんかではありませんが、彼女の決意に思わず「そんなバナナ!」と叫んでしまいます。少女の最期の笑顔を見て一言
「いい笑顔だ。私も、こんな笑顔で死にたい」
と言ったシズは泣いていなかったそうです。しかし、その心境は一体……?
 第五話「忘れない国」 エルメスがこけます。沢山こけていれば、そのうちエルメスは空を飛ぶでしょうか?
 第六話「安全の国」 安全の為、パースエイダーの『カノン』は分解されてしまいます。まぁ、安全意識も行き過ぎれば毒ですね。
 最後に、アムール川で水浴びする師匠は、きっととてもセクシー!
【巻末特別問題】模範(?)解答出題者:時雨沢 恵一(株式会社メディヲワークス・2034年入社試験より抜粋)だ、そうです。興味惹かれた方は、一度解いてみましょう今回の書評がどうしてこんな馬鹿になったのか、理由が解かります

【キノの旅 VII ――the Beautiful World――
  評価点:55点  刊:電撃文庫  著:時雨沢恵一  絵:黒星紅白
   う〜ん……。最近、キノの旅を読んだ後にこう湧き上がる「考えるべき何か」が無い事に気が付いた。……人気が出てきて、ネタの練り方が甘くなってきてるのかなぁ?
 とまぁ、率直な意見としてはこんなモン。だからと行っても、まだまだ「つまらない」わけじゃないです。幽霊を怖がる師匠も、これはこれでイイですしね。あとは、そうですね。嘘つきの国が良かったです。友を、恋人を想うが故の優しい嘘……ただ、個人的には、三者の嘘がすべて明るみに出てくれれば、もっと倖せになれたのでは……。
 最後に。二人の「キノ」の関係が、少しずつ明るみに出てきましたね。一人目のキノって、あの男なのかなァ?

【きみにしか聞こえない CALLING YOU
  評価点:65点  刊:角川スニーカー文庫  著:乙一  絵:羽住都
   切ない物語。少し重たい文体ながら、書き手によっては童話に変わる印象を持ったお話が全部で三篇。「Calling You」「傷 ―KIZ/KIDS―」「華歌」
 Calling You。主人公は周囲の人間に溶け込む事が苦手で、自然と周りから孤立する結果を招いてしまった女子高生・リョウ(因みにれっきとした日本人ですから。乙一さんの特徴として、主人公を確定的に紹介しない傾向があります)。彼女は同級生達が携帯電話を持っているのに自分だけ持っていない――持っても意味が無い事を知っており、それを嘆いていた。それでもやはり「携帯電話が欲しい」と言う少し子供じみた、しかし本人にとっては非常に切実に願い続け、「もしも持つんだったら、こう言う携帯電話が良い」と夢想するようになっていた。そしてそれは少しずつ明確なビジョンが出来上がり、いつしかそれを自分が本当に持っているような錯覚さえ抱くようになっていた。
 で、結局それは「心の中でだけ存在する携帯電話」としての形を持つようになり、同じように携帯電話を持つ事を夢想していた少年・シンヤと、そして年上の女性・ユミと、その携帯電話を通して知り合う事に成る。
 ユミの正体はすぐに想像がついてしまってちょっと残念だったけど、最後のシンヤとの別れはあまりに可哀想だった。本当に、切なすぎます。ところでユミよ、君はどうしてリョウにシンヤとの結末を教えなかったんだい?
 傷 ―KIZ/KIDS―。読み出しで思った事。「ジョリー〜〜!!」。いやね、主人公の少年の友人・アサトが「他人の身体的障害を自分の体に移す(もしくは自分の傷を他人に移す)」能力を持っていて、初めの方で「傷の深さも、痛みも、半分ずつ。2で割って、はんぶんこだね」って言ってたから……。御免、古い話だったね。ネタが解かる人いないね。でも、解かる人がいたら手を上げるように。
 まァ、これも切ない話。最後は主人公の少年とアサトが「未来を見据える」勇気を持つに到る、と言う意味ではハッピーエンドなんだけど、結局シホの火傷の痕はアサトの体に残ったままでシホは消えちゃうし、結構過酷そうな未来が待っているんですよね。それでも、二人一緒に未来を歩いて行って欲しい、と思いました。
 華歌。正直、読んでいて結局何を言いたかったのか纏まっていない感があり、不評。前の二つと違って、「哀しさ」の中にも「優しさ」と「ほの温かさ」が眠る「切なさ」が無かった。ただ、柄谷ミサキは「可哀想だな」と、同情だけはしましょう。あと、主人公が結局男なのか女なのか全く解からなかった。と言うのも、主人公が男であると仄めかす箇所と、女であると仄めかす箇所とあって、明確に書いてないんですよ。確かに、主人公が男であろうと女であろうと物語に全く関係無いんですが……気になって気になってしようが無いもんでさ。
 最後に。全体的にもう少し煮詰めたら、もっと素晴らしい作品になったと思う。まだちょっと荒削りな所が目立ちますね。
PS:相変わらず「自分の事は棚に上げて」ます。

【キーリ 死者たちは荒野に眠る
  評価点:55点  刊:電撃文庫  著:壁井ユカコ  絵:田上俊介
   死者を視る事ができる少女・キーリを通して物語れる、短編を繋ぎ合わせて構成された一冊の本。一本一本が独立している為、そう言う意味では読み易かったです。
 で、全体としては、正直読み難かった。文章自体の構成にまだまだ未熟な部分が多いようで、読んでいて修飾・被修飾の関係が掴み辛く、「うん?意味が解からん」って箇所が多々見られた(←他人様の事をエラそうに語る前に自分の作品を何とかしろってツッコミは無しでお願いします)。それと、その文章自体が妙に長く、そのクセ読点の数が少ない為、読んでいて疲れます。パッと読んでみると、読点無しで句点まで続き、それが二行・三行に渡ることがままあります。文章力、と言う意味では、プロとしてまだまだ未熟な部分が残りますね(←他人様の事を以下略。まぁ、俺は素人だし)。
 で、内容。第一話「ルームメイト」と第三話「血まみれピエロに喝采を」は面白かったですが、他のエピソードはボーダーラインって所でしょうか。ただ、この作品なら続編が出されたとしても、違和感無く「ああ、続編だな」って感じで入り込めそうです。どっちかって言うと電撃ゲーム大将 <大将> 受賞作品って言うよりも、雑誌連載作品の単行本化って印象のある作品です。って、全然内容語っていない。まぁ良いか(良いわけ無い)
 最後に。第六章の以下の言葉が妙に好き。
   ひょっとしたらこの惑星に神さまはちゃんといるのかもしれない。
   それはもう完全無欠に立派で公平な人格者で、
   強い者にも弱い者にも、
   お金持ちにも貧乏人にも、
   ただ平等に見守るだけで決してどちらか一方をえこひいきして
   手を差し伸べるなんて事はしないのだ。
   なんてありがたい神さまなんだろう。
   死んじゃえ。
     (原文まま)

GUILTY GEAR X 白銀の迅雷 Lightning The Agent
  評価点:60点  刊:ファミ通文庫  著:海法紀光  絵:石渡大輔
   題名から大方の予想がつくのではないだろうか?そう、同名ゲーム『GUILTY GEAR X』のノベライズだ。ゲームからの登場人物は、ソル=バッドガイとカイ、そしてファウスト。Jが名前だけ登場して、メイが多分声だけ出演(明記はされていなかった為、自信は無い)した程度。俺みたく「紗夢が出てねェじゃねェか!!」と言う感想をお持ちの方には、ちょっと不満ありな作品ですが……。
 面白かったっス。基本的にゲームのノベライズは面白くないのが常ですが、この作品は完璧にゲームから独立した作品として読める。緊張と臨場感に溢れた文体で語られる物語、貧しいながらも決して誇りを忘れずに生きている貧民街の人々。カイとソルとの間の確執。カイの正義と貧民街の人々の誇りの行き違い。読んでいて飽きない作品です。
PS:この作品読んで初めて知った。ファウストって、ムッチャ善良なお医者様だったのね……。人は見掛けに因らない。

GUILTY GEAR X 胡蝶と疾風
  評価点:80点  刊:ファミ通文庫  著:海法紀光  絵:石渡大輔
   GUILTY GEAR Xノベライズの第二弾。今回ゲームからの登場人物は、亡国ジャパンに伝わる古の武術シノビノジュツをマスターするチップ=ザナフ君。国際警察機構のカイ=キスク。ツェップ国大使ポチョムキン。人外の医者ファウスト。アサシン集団の仮の長ヴェノム。とは言っても、チップ以外は脇役でしたが。
 物語はチップの野望である「大統領になる」。何故彼が大統領になりたいと思うようになったのか、その心の奥底にある硬い「芯」の物語。そしてもう一つの軸は、傀儡に近いながらも若くして大統領となった少女エリカの「真に人の上に立つべき人物」の姿を追う事。この二つが優しく絡み合い、一つの物語となっています。
 ツェップ国大統領ガブリエルには片手であしらわれ、カイには勝てる気がせず、ファウストには圧倒されと、腕っ節では色々と情けない場面を見せてくれましたし、自分がエリカの護衛であると言う事も忘れて無鉄砲な事を仕出かしたりと、結構失態多かったチップですが、心の芯にある強さは、しっかりと魅せ付けてくれました。誇り高いシノビであるチップが、エリカの為にカイに向かって土下座をしてまで懇願する様は――ファンの方にはある種のショックがあるかもしれませんが――、感動です。
 そして大統領少女エリカ。中々飄々としていて好きでした。警護兵をチップがドツキ回していた時にサラリと「じゃぁ私の分もお願い」と言ってのけたり。でも、貧民外の少年少女達に食料を配りながら名前を聞いてやっている姿には、胸が温かくなりました。
 チップとエリカ、二人の主軸人物の心の強さを描くこの作品、是非とも御一読あれ。

【銀河聖船記】
  評価点:40点  刊:ソノラマ文庫  著:岡本賢一  絵:鈴木雅久
   ん〜。まぁ、ボチボチですね。『ディアスの少女』『ディアスの戦士』『ディアスの天使』から成る三冊の作品。展開が古臭くってご都合主義に溢れている。大筋の所では「どうかな」感が拭えないけど、作品そのものを否定するほどには酷くない。
 物語は、英雄バルドの娘にして戦艦ディアス起動の鍵となる少女・リナを、猫種のバイオハーフ・アドラと鼠種のバイオハーフ・ネズミが拾った所から始まる。リナは、皇帝ランバルドが父の形見とも言える戦艦ディアスを人殺しの道具に使う事に強い反発を憶え、それに対抗すべく立ち向かう――。ってな所が物語の大筋。展開そのものは、先に述べたようにご都合主義的な展開が多くて落胆する場面が多い。細かいところでは、ネズミの小粋なジョークが笑えない当たりも苦笑いを誘う。けれど、アドラは格好良い。帝国皇太子レオンとその参謀キリルの仲が少しずつ良くなっていく展開も中々。他の脇役連中も、少しずつ格好良い所も良かった。
 作品としての出来は点数通り――俺のツレは絶賛してたけどね――だけれど、キャラクター達に、少しずつの魅力があった。

【クリス・クロス 混沌の魔王
  評価点:60点  刊:電撃文庫  著:高畑京一郎  絵:きがわ琳
   楽しめたけど、持て余した暇を潰す程度かな?思いっきり推す程でも無いけど、駄目出しする程悪くも無く。まぁ、それなりに、ですね。第一回電撃ゲーム大将金賞受賞作品。だけど、『金賞』と思って読むと、それ程でも無かった感覚は否めない。面白いんだけどね。高畑氏デビュー作だけど、寧ろ高畑氏の二作目以降の方が面白いと感じました。
 それはそれとして。超弩級スーパーコンピューターMDB9000――通称『ギガント』を通して織り成される仮想現実型RPG『ダンジョントライアル(以下DT)』。この『DT』は256人までの同時プレイが可能な「ウィザードリィ」に似たダンジョン探索型ネットRPGで、カプセル端末から『ギガント』に接続して、自分自身をコンピュータ上に投影して楽しめるRPGだ。――まぁ、設定としては、今(2002/06/05現在)ならそこらの小説・漫画にありふれたものですね。ただ、細かい背景設定が現実感に富み、巷に出回る作品群との格差を強調します。
 『DT』のあまりの実感に現実と虚構の境界が曖昧になった時の人の恐怖――まぁ、実際に経験すれば物凄い恐怖でしょうけど、読者として読み進めても、あまり怖く無かったですねェ。もう少しパワーが欲しかったです(←「偉そうに言うな」とは言わないで下さい)。
 でも、主人公の『ゲイル(ゲーム中での名前。職業は盗賊)』は、格好良く活躍していた。

【刑事ぶたぶた】
  評価点:80点  刊:徳間デュアル文庫  著:矢崎存美  絵:<CG>杉山摂朗
   ぶたぶたシリーズ第3弾。今回は題名の通り、ぶたぶたは刑事です。
 なんて言うのか、ぶたのヌイグルミがこれ程刑事に向いているとは思わなかった。って言うよりも、「ぶたぶたが」だけどね。この才能とも言える優しさは、こう言った「人間との係わり合い」が深い職業にはぴったりだ。
 見開きCGでぶたぶたが乾燥機の中を走り回っている場面は必見。

【ゴーストハンター】
  評価点:65点  刊:角川スニーカー文庫  著:山本弘(原案:安田均)  絵:弘司
   「ラプラスの魔」「パラケルススの魔剣 謀略の鉤十字ハーケンクロイツ」「パラケルススの魔剣 アトランティスの遺産」から成る三冊。まぁ、「ラプラスの魔」と「パラケルススの魔剣」は登場人物こそ同じだけれども、全く別のお話なんですが。
 過去のパソゲー「ゴーストハンター」のノベライズ。ゴーストハンター自体もこのノベライズ作品自体も非常に古い(15年前:2002/12/07現在)作品ですので、俺はゴーストハンターをプレイした事もこの作品を読んだ事もありません。それが何?と聞かれても困るのですが、つまりは「純粋に、ゲームとの比較無しに作品の質を見比べる事ができる」わけです、はい。
 で、結果。面白かったです。多くのゲームのノベライズにある「ゲームをプレイした事のあるプレイヤーを対象に作品を書き上げ、結果としてオリジナルを知らない読者を置いてきぼりにする」と言う傾向はありませんでした(これは、特にRPGのノベライズに顕著に表れる)。逆に、「この作品にオリジナルのゲームがあるんだろうか?」と疑ってしまうほどに、小説としての出来が確りとしていました。う〜みゅ。流石は山本センセ。その手腕が鮮やかですナリ。
 で、所感。
 まず、ラプラスが最期に掛けて来たリドルは面白かったです。ただ、フランス語を知らなければ絶対に解けないリドルですけどね。
 パラケルススの魔剣は、設定の緻密さに絶句。すげぇなぁ、山本センセ。よくもこれだけの知識を持っている、もしくは集めたもんだ。しかも、出所もバラバラの神話をパッチワークの如く繋ぎ合わせて、読者を納得させるだけの道筋を立てるのだから凄い――そしてそれを、物語を書き進めながら臨機応変に行ったというのだから、もう言葉も無い――。ただ、月が宇宙船だってのはどうかなぁ……。いや、「設定に無茶がある」とかそう言う事を言うつもりはないですよ?ただ、その理論を別の作品で使用していれば気に成らなかったんですが、この「ゴーストハンター」と言う世界観で展開されると、世界の持ち味との符号が噛み合わないような、微妙な違和感を感じたワケですわ。
 その他、全体の書込みとかそう言った所は、素人の俺があーだこーだと文句を出せるようなレベルでは無かったです。流石です。
 ま、端的に言いますと「面白かった」って事です。

【コールド・ゲヘナ 4】
  評価点:80点  刊:電撃文庫  著:三雲岳斗  絵:忍青龍
   ゲヘナシリーズ第四巻。えー、ルーファス・瓏は女装姿よりも偽牧師姿の方が似合っていると思う。P256のアイスとメルの嬉しそうな表情が心に焼き付いて離れません。あと、トワイライトが何者か未だに思い出せません(笑)。
 と、内容はあまり関係無い所から入ってみたり。
 で、内容は点数付けの通り。面白かったです。スピーディーな展開にも関わらず読み手を置いてきぼりにする事も無く、対ドラゴン戦の描写は息詰る緊張感がある。何より、キャラが生き生きと動いていてくれて読んでいて気持ちが良い。
 シークマンが名前にこだわる気持ちは、個人的に共感。ただ、こだわりの意味が俺とはかなり違った意味合いですが。だからと言ってドラゴンレゾネーターを起動させるのは共感できませんけどね。
 気に入らなかったのがトーレンス。気持ち悪いぞ、お前。逆に気に入ったのがショーファー。オッサン、渋いぞ。
 最後に。ブルードラゴンよりも巨大なトゥールベルを投げるのはやり過ぎだろ。「不可能を可能にする」のは確かに凄いと思うが、何と言うか、絵的に派手だが恰好良いとは思わないし……(極めて個人的な意見です。聞き流して下さい)。
 書く事が思ったより短かったけど、続巻にも期待大です。

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