Frame ON

M.G.H 楽園の鏡像 HEAVEN IN THE MIRROR
  評価点:95点  刊:徳間書店  著:三雲岳斗  絵:加藤直之
   っくァ〜〜!!最高!!三雲岳斗先生のファンの方々がこぞって推薦するだけある!!SFミステリーの最骨頂って言うの?科学の理論と人間の思考の融合と交錯。値段と厚さに見劣りしないこの名作!!これを読まないわけにはイかないよ、お客サン。特に、理系の人間にはお勧め。
 さて、取り敢えずこの傑作に出会えた事への感激はここら辺にして。書評に入りましょう。
 まず、非常に事細かに描かれ、それが故に生々しいとさえ言える状況描写と心理描写――つまり、文体の素晴らしさ――。そして、どこでこさえたのか恐ろしく造詣が深くそして広い科学的考察――つまり、知識の幅――。読んでいると、初めにこの二つに圧倒されます。
 そして、始まり方も素晴らしい。「無重力空間で漂う『墜落死体』」。これで「ゾクリ」と来る何かを感じた人は、通販でもなんでも良いから、サッサとこの本をゲットするように。
 そして、人の持つ「常識」と科学の持つ「常識」。その二つの微妙な接点を見事に隠し切った事件の真相。読み進めるたびに嘆息ばかり。
 で、さらにさらに、一人一人の生き様と言うか、生への意義と言うか、そう言った「人間の数だけ存在する無限の意義」の使い分け。よく三雲岳斗先生一人だけでこれだけの心理を書ききったなァと……。なんて言うのか、もう言葉も無いです、ハイ。
 この作品への評価は、もう「脱帽」の一言に尽きます。SFとミステリーが好きな人。再三言います。「買え」。命令口調です。ただ、逆に科学的考察が入り組み過ぎて、人によってはひどく読み辛くつまらないかもしれませんね。冷静な観点から見ると(笑)。
 ああ〜〜、俺も三雲先生の一割でも良いから、文才と知識が欲しい。
PS:タイトルの「M.G.H」の意味は、機械屋なら知っていて当然のアレだった(mghと書けば、もっと解かり易いか?)。ただ、あまりに当たり前過ぎてそのまま読んでいた為、逆にタイトルとの接点がピンと来ないで、読後二十分くらいはタイトルの由来がわからなかった。

【<縁切り荘> の花嫁】
  評価点:50点  刊:角川文庫  著:赤川次郎
   何故かここに赤川次郎が(笑)。ファンタジー小説以外の小説が置いていないから(2002/10/20現在)、妙に作品が浮いていますねェ。
 それはさて置き本題。主人公・塚川亜由美とその周辺人物を取り巻く人々を巻き込んだ、典型的なドラマ形式の推理小説。『花嫁と女神の微笑み』と表題作『<縁切り荘>の花嫁』から成る短編。どうやらこの作品以前にも亜由美とその他の人々を描いた作品群が存在しているらしいですけど、俺は知りません。そして、知らなくても=本作品から読んでも特に困ることはありません。
 赤川次郎を読んだのは初めてですけど、作品全体を通して暖かい印象が残る作品だな、と思いました。あまり文学小説的では無いのだと知り、作品に親しみが持てました。そう言った意味ではとても好印象ですが、その親しみ易さが逆に「人の死」を軽く見せている感も否めず、その是非に判断を下すには微妙な所。
 で、「推理小説としての評価」ですが、正直、あまり面白くないんですよね。ファンの方々が聞いたら激怒しそうな事サラッと言ってますが。まぁ、何度も口を酸っぱくして言っているんですが、所詮は感性の違いなんで怒られても困ります。
 投げ遣りな言い訳は捨て置くとして、どう言う所が面白くないと感じたかと言うと「人を殺す動機に説得力が無い」「推理に『事実を知っている者の視点』が絡んでしまっている」。この二点に尽きますね。
 けれど、そう言う「推理小説」として以外の面から読みますと、良い感じ。前述した利点か欠点か迷う文章の親しみ易さや、文章自体の読み易さ、人物の動き方とか。そう言う所ですね。以上。

【エンジェル・ハウリング2 戦慄の門― from the aspect of FURIU
  評価点:65点  刊:富士見ファンタジア文庫  著:秋田禎信  絵:椎名優
   うん。面白かった。相変わらず秋田さんは情景描写が上手い。見習いたい所だ。リアルな描写に織り交ぜられるシュールな書き込みは、やっぱり天賦の物なのかなァ。
 とまれ、エンジェル・ハウリングの続編。一巻の主人公が美貌の女暗殺者ミズー・ビアンカであったのに対して、二巻の主人公は謎多き少女フリウ・ハリスコー(こう言う「響きにクセがある」ネーミングのセンスが俺は好き)。どうもこのシリーズは奇数巻がミズーの視点で、偶数巻がフリウの視点で物語が描かれて、それぞれで独自の完結を迎えるらしい。
 作風は、全体を通すと大体、「魔術師オーフェンはぐれ旅」に近い。秋田さんの処女作「ひとつ火の粉の雪の中」ほど辛く重苦しい雰囲気でもなく、「魔術師オーフェン無謀編」ほどだらだらと無駄口が続く軽薄さがあるわけでもなく。淡々とした重みの中に、軽くアクセントを利かせるように無駄口を包ませて雰囲気を和ませるような感じ。その大役をかっているのが人精霊のスィリーなのだが、なんかウザい。だからと言っていなくなられると文体が重いの一辺倒になりそうで困る。なかなか良い味出してるんだけど、締まりが悪くなるんだよね。ま、良いケド。
 内容は、始まったばかりだしね。それなり。今後に期待。って、何か最近こればっかだな(2001/04/26現在)。
PS:「最近」って言葉は、前々から順を追ってこの書評を読んでくれているお客様にのみ有効な魔法の言葉です。だって、読んだ順に書評が書かれているわけじゃないもん(←解かっていても改める気はゼロ)。

【エンジェル・ハウリング3 獣の時間― from the aspect of MIZU
  評価点:50点  刊:富士見ファンタジア文庫  著:秋田禎信  絵:椎名優
   今作はミズー・ビアンカの視点から描かれた物語。今後のフリウとの交錯には期待が高いけど、今回はあまり面白くなかったなァ……。何がどう気に入らないのか、とか聞かれると困るけど……。何て言うのか、少々読み難かったのが原因かな?ノリがひたすらにダークだったからなァ……。
 秋田さんは、もう少しだけ軽い雰囲気を織り交ぜた方が面白いと思うのは、俺だけだろうか?

【エンジェル・ハウリング4 呪う時間― from the aspect of FURIU
  評価点:55点  刊:富士見ファンタジア文庫  著:秋田禎信  絵:椎名優
   今回の見所は、自分自身のどうしようも無さに苦悩し続けるフリウ・ハリスコーがとても可愛いと言う事。P.256で、ツラそうに訴えかけるフリウが……って、何をサディスティックな悦楽を講釈しようとしているのだ。
 ともあれ、エンジェル・ハウリングの4巻です。冗談は抜きにして、今回は自分自身のどうしようも無さに苦悩するフリウが描かれています。悩んで苦しんで、そして、これからどのように成長していくのだろうか?それは、彼女だけでは無く、サリオンも。彼女達の成長。それが、エンジェル・ハウリング偶数巻での楽しみだと思う。
 ンで、今回もスィリーが妙な存在感を出しています。彼は果たして、物語の中核に食らい込む存在なのだろうか?それとも、ただ存在してその存在感を微妙に曝け出し続ける微妙な存在なのだろうか?今巻のエピローグで彼が最後に語った一言
 「見てる奴が余分に考えてやったっていいんだぜ?
  誰か、あの小娘が泣いている理由を考えてやってくれんかね?
  いや、俺よく分からねぇんだ」
ってな言葉が、どうにも引っ掛かる。単純に、何かしらの心への引っ掛かりって言う意味ででも、何やら物語的に意味深と言う意味ででも。
PS:最近、秋田氏が一番頑張っていると言う印象を受けるのは「あとがき」です。頑張ってんなァ。

【エンジェル・ハウリング5 獲物の旅― from the aspect of MIZU
  評価点:60点  刊:富士見ファンタジア文庫  著:秋田禎信  絵:椎名優
   ミズー視点のエンジェル・ハウリング。そですね、ミズーが少しずつ変わり始めているって所が、今回の見所ですかね。傷付いたジュディアを助ける事で自分自身が不利になる事も構わず、ジュディアを助けようとした。以前までのミズーからは考えられない変化――成長ですね。瀕死のジュディアが「自分に構うな」とミズーに言った直後、ミズーの口から出た「嫌」の、たった一言。その一言で、俺の中にあった勇ましいミズーが一瞬にして「可愛い」と印象が変わった。
 あと気になる事と言ったら、契約の事くらいですかね。
 それと、相変わらずな秋田氏の語り口が好きです。特に、ミズーとアイネストの僅かな遣り取り
「死になさい」
「心なしか柔らかい言い方になったね。ぼくが最後に聞かされたのは、殺してやる、だったと思ったけど」
 何て言う、皮肉と揶揄の応酬が大好きです。

【エンジェル・ハウリング6 最強証明― from the aspect of FURIU
  評価点:40点  刊:富士見ファンタジア文庫  著:秋田禎信  絵:椎名優
   あ〜、どうでしょう。語り口とかは相変わらず好きです。で、面白かったんですが……敢えてここで挙げる程の何かがあったかと言うとそう言うワケでも無いと思う。それでもまぁ、敢えて挙げるなら(言葉の矛盾は無視する事)
1.スィリーがよく食べられてた。
2.サリオン・ピニャータが情けないクセに男前。
3.ベスポルト・シックルドが男前に良いお父さん。
4.ウルトプライドをどうしてもウルトヒケウと読み間違える。
 そんなところでしょうか。
 ちうワケで「面白かった(と思う)」けど、何を薦めて良いのか解からないんで、点数低めに付けときました。ダメ?

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