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【[i.d.]T 神使いたちの長い放課後
  評価点:40点  刊:電撃文庫  著:三雲岳斗  絵:宮村和生
   三雲岳斗の長編学園ミステリーファンタジー。主人公伊波瀬いわせみぎりが通う学園で残忍な殺人事件が発生した。砌は泊瀬はつせ由希ゆきを守る為、犯人の割り出しに動いたのだが……。
 あ〜〜。点数通り。三雲作品だと期待していただけになんかこう、ガクーン。具体的にどこが不満だったのかと列挙しますと、
   ・犯人の正体が簡単に予想できた。
   ・共犯者の犯行動機があまりに予想通りで泣けてきた。
   ・事件の重みに対するストーリーの厚みが感じられない。
   ・文字の中から浮き出てくるようなキャラクター性が感じられない。
   ・カラーページのキャラクター紹介で栗原くりはら倫子りんこ真砂まさご那依なより喬木たかぎ深綾みあやの三人が
    能力者だと説明入っていて本文を読む前にネタバレされた気分でブルー。
 まぁ最後は三雲先生の責任じゃ無いんですけどね。あ、あと、宮村さんの絵の正面顔、なんだか「のっぺら坊」みたいで気持ち悪いです。
 とまれ、そんな感じの1巻。……2巻以降が微妙だよなァ……楽しみにできそうな要素も無いし……。
追記:そう言えば、後書きでこの作品とレベリオンがリンクしていると記載されていたけど(地名とか)、どこなんだろう、記憶に無いなぁ……。ああ、解かった、「事件の真犯人が実は主人公の友人だった悲劇」な所だ。

【[i.d.]U seven
  評価点:65点  刊:電撃文庫  著:三雲岳斗  絵:宮村和生
   神使いたちの長い放課後と一ヶ月も離れていない時期のお話。神使い〜に較べて、三雲臭が回復していて面白かったです。
 え〜〜、『レベリオン 彼女のいない教室』から混沌の瞳ヴィジョン・オブ・ディスオーダーの皆瀬 梨夏が登場。能力を使わなかったんで、コイツが一体何者だったか、結局最後まで思い出せませんでした。仕方ないからレベリオン読み直して、ネットで検索して――なんて事してました(←レベリオンの主要人物を、能力でしか憶えてないヤツ……)
 まぁ、皆瀬は女子高生から成長してましたし、彼女自身は「作品がシンクロしてますよ〜〜」程度の出番しかなかったので捨て置くとしまして。物語の主軸キャラは柚木 穂邑(ゆずき ほむら)と長岡 櫂(ながおか かい)。穂邑に届いた謎の脅迫状を追い、長岡が犯人の追跡に乗り出す。みたなノリですね。
 森原・乾・藍沢の三名は、能力を出す前に殺されます。これでもかと言わんばかりの当て馬です。られキャラです。まぁ、それもどうでも良いんですが。
 面白かったんですが、「何が面白かったのか?」を言葉にしようとして、何も出てこない事に気付く罠。多分、どこかの場面が面白かったとか、そう言ったピンポイントな面白さではなく、全体を通して読み進め、少しずつ謎が解明していく、物語が進んでいく様が面白かったんだと思います。なので、面白い点に関する特記事項はスルーと言う方向で(汗)。
 それに対して、少々不満点を。長岡が見ただけで使鬼を行使できるのは設定として無理があるような……いくら長岡が「天才」と呼ばれる才能を有していようと、納得ができません。まぁ、納得できなくても物語は進んでしまうのですが、せめて何かしらの「伏線」を用意した上で、こう言う特殊能力を身に付けて欲しかった……。
 で、最後に。謎の声が発した「『Fiore』の名を持つ天使様は……」。『Fiore』はイタリア語で「花」。これはレベリオンで登場し、『楽園に紅き翼の詩を』で「天使がいるべき場所」に帰った "Y" の事なのだろうか?多分、邪推じゃぁないと思います。さて、事実は如何に?

【アウゴエイデス1 神話覚醒
  評価点:45点  刊:集英社スーパーダッシュ文庫  著:嬉野秋彦  絵:水沢ひかる
   う〜ん。いまいち。これは、読み手の趣味によって感想が大きく分かれる作品でしょうねぇ。
 ストーリーは、冒険者アナスタシストの兄妹を中心に進んで行く。兄貴の方は "絶世の美女" クロディーヌ=ラブレイス、妹の方は喧嘩っ早さは天下一品アキラ=ラブレイス。そして、ひょんな事からアキラの "ヘソ" に寄生する派目に陥った自称魔神アウゴエイデスのカリスロッサ。
 ストーリーは簡単。ガルガライラの遺跡に潜ったラブレイス兄妹は、遺跡深くの玄室でカリスロッサの入った箱を見付けるが、間抜けなミスでカリスロッサがアキラのヘソに居付いてしまう。しかし、それを遺跡の持ち主である前時代神智学探求協会アカデメイア・アルパ・ロカに報告するわけにもいかず、黙っていたら協会から追われる身になってしまう――って感じです。
 キャラクターは魅力的でした。ドタバタと暴れてギャーギャーと騒いで。中でも、クロディーヌ姉さまは男のくせに魅力的で、そのクセ妹思いな男らしさがあって好きです。
 対してストーリーそのものは特筆する程の魅力に溢れているわけでもないし、こき下ろすほど酷いわけでもありません。けれど、語り口調が妙に軽々しくて鼻に付くのが気に入らない。表現方法が意識的に子供臭くしているのがイラつかせる。別に、普段の何気ない場面ならばそれを押し通しても構わないのですが、シリアスな場面でその言い回しをされると胸の辺りがムズムズとして気持ちが悪くなる。嬉野さんは、THE KING OF FIGHTERSシリーズを読んでいただければ解かるのですが、もっとシリアスな文体で書けば、質の良い文章で語れるはずなんですけどね。
 勿論、それらは完全に個人の趣味です。こう言う作風が好きな人もいるでしょうし、それを否定するつもりは毛頭ありません。ですが、そう言う軽々しい表現で書かれた小説が嫌いな方には、性分的に「合わない」作品である。それだけは断言できるものだと思います。

【蒼い月は知っている The soul doesn't disappear
  評価点:45点  刊:白泉社My文庫  著:橘悠樹  絵:椋本夏夜
   イラストレータに惹かれて買いました第二弾(第一弾はアンジュ・ガルディアン)。でも、カバーイラストと相俟って、流石に白泉社の本を買うのは恥かしかった……。
 まず初めに、椋本先生の猫耳メイドを観たい人は必ずGETです。カバーの和泉とP.55の伊織の猫耳メイド姿は必見です(←馬鹿)。
 物語は、高校一年生の七瀬和泉とその友人楯無たてなし音葉おとは、音葉の兄の伊織の三人が出くわした殺人事件へのアプローチと解決。まぁ、端的に言えばミステリーッスね。
 ミステリーその物に関しては、俺的にはまぁ「それなり」でした(←ミステリーは元々あまり読まないんで、ミステリー愛読家の視点から読めばどうか知りません)。敢えて不満を挙げるなら、偶然見付かった天城隼人と村雨水登の二枚の写真の背景に、「偶然にも」オセハリスの著書が写っていた偶然もどうか?と思った程度かな。まぁ、その程度なら充分以上に許容範囲なんですが、「敢えて」挙げただけです。
 そして、それぞれのキャラクターが心の中に持つ心情と闇の描き方は面白かったです。特に、自分を抑える為に自らに女装・喫煙を強いる伊織。
 続巻が出版されれば「もう一人のオセハリス」の謎に迫ってくれる事でしょう。って事で、次はそれに期待。

【アース・リバース】
  評価点:65点  刊:角川スニーカー文庫  著:三雲岳斗  絵:中北晃二
   微妙。いや、面白いには面白いんです。ただ、フと思い返すと、いくつかの不服と言うか、疑問が残る所があって、今一釈然としない感が拭えない。けれど、サクサクと読み手に読ませる展開や、無駄の無いストーリー、人間や社会の矛盾にも似た微妙な心理面の描写と受け取り方は、相変わらず感服ものです。
 俺が減点対象としてみたのは全部で三つ。まず一つは、ラスボスでもある評議会の最高権力者・アルハザード・イブリースの狂気が、今一書ききれて無かったと思う所(あまり重要で無かっただけかもしれないが)。
 二つ目は、イブリースの駆るクルゼルタの最期が、拍子抜けするほど呆気なかった(それが良いと言えばそれが良いんだが。長引くと、ダラダラとするだけだしね)。
 最後。古代の地球人は、リダウトやその他の超兵器を造り出し、ズタズタになった神経系を綺麗に修復し、高熱のマグマ層に巨大な空気泡を安定させてフレイム・シーを生成するような科学力を有していた。それなのに地球の自然系を再生させる事ができなかった訳ねェんじゃねェの?と言う疑問が湧いて仕方が無い。どうなんだ?「再生は破壊するより難しい」って言われた所で、千年もの時をこんな地獄のような世界で過ごすよりゃァ、よっぽどマシだと思うしな。
_/_/_/_/ キャラクターランキング _/_/_/_/
 強いて上げれるだけのお気に入りキャラクターは、この作品では一人だけ。それは主人公シグ・クルーガーの姉貴レミ・クルーガー。三雲先生の作品に登場する「脇役と言う程の存在でも無いけど、メインを張るほどの存在でもない。でもやっぱり、微妙にメインに組み込まれそう」なキャラクターは、とっとも魅力的です(レベリオンの緋村杏子とか)。

R.O.D ―第三巻―
  評価点:60点  刊:集英社スーパーダッシュ文庫  著:倉田英之(スタジオオルフェ)  絵:羽音たらく
   売り言葉は「超文系アクション」。これには否定論アリ。確かに主人公の読子=リードマンは文系だが、別にそれ自体がアクションに関わっているわけじゃないから。
 細かいツッコミは放っておいて、その「超文系アクション」第三巻。一・二巻とは違って、三つのストーリーの短編集。面白かったですが、その面白さの大半がキャラクター依存による凭れ掛かりだと思います(書評書くに当たって分析結果。こうやって分析しちゃうようになる書評って厭ァね)。
 文句は言わずに書評入ります。これは、主人公の大英図書館特殊工作部のエージェント・読子=リードマン "ザ・ペーパー"、読子の知り合いの女子高生作家・菫川ねねね(←本名)、大英図書館特殊工作部志願者ウェンディ=イアハートのそれぞれを主人公にした短編集。第四巻への繋ぎの役割有り。
 これは、一つの小説を巡って三者三様の「本に対して感じる魅力」を語ってくれる優しいお話でした。
 第一部はウェンディ。思い返すと、物語の主軸がウェンディよりも、出番の少なかった共に特殊工作部を目指す同僚カレン=トーペッドになってるような気がする(笑)。カレンの笑顔が素敵でした(←書評じゃねェな……)。
 第二部はねねね。一応「人気作家」であるねねねが、自分の「作品を書く意味」を探る、ちょっとした五月病患者のお話。
 第三部は読子。一日に三件は本屋を廻らないと気が落ち付かず、文字が栄養源と言える程の愛書狂(ビブリオマニア)の読子が、一冊の本も持たずに無人島に漂着するお話。読子の書物に対する狂的な愛が描かれてます。
 三編ともに優しいお話ですが、「ほのぼのする」よりは「少し哀しい」感がありましたけど。一巻、二巻を読んでいる人にはお勧めするけど、そうで無ければお勧め度は低いです、ハイ(そう言う人達には点数40点くらいかな?)。
PS:カラーイラストの読子が良かったです。

R.O.D ―第四巻―
  評価点:50点  刊:集英社スーパーダッシュ文庫  著:倉田英之(スタジオオルフェ)  絵:羽音たらく
   見開きの拗ねた読子の表情がラヴリ〜。って、25歳の女性に対する意見でも、書評でもない。
 う〜ん。目立った不満点は無いのですが、「コレだ!!」って言う面白さがあるわけでも無く。でも、書物に対する筆者の意見(その殆どが読子とかジョーカーが口にしているのですが)は、個人的にとても好き。少なくても、値段分の暇潰し価値はあります。
PS:第一章『出世のチャンス』の冒頭で語られた「文字」の歴史は、就職試験の小論文で活用させて頂きました(面接会場までの電車の中で、丁度読んでいた)。タイトルは「情報化社会と私」だったんですが、その時俺は冒頭で「情報化は現代に始まったわけではない。遡れば文字が生まれた時から……」みたいな感じで書き出したんですね。ライトノベルが「役に立った」数少ない事例として、ここで感謝の念を述べさせて頂きます。
PSに対するPS:因みに、そのまま使ったわけじゃありません。流石に試験会場でR.O.Dを広げるわけにはいかないし、となれば俺はそれ程記憶力良くないんで。うろ覚えを自分なりに訳読して利用しただけです。

R.O.D ―第五巻―
  評価点:50点  刊:集英社スーパーダッシュ文庫  著:倉田英之(スタジオオルフェ)  絵:羽音たらく
   見所っすか?永劫の囚人ファウストと、不朽の支配者ジェントルマンの僅か数頁の火花の散らし合い。この二人の過去の因縁、非常に気になりますね。
 そして、その遣り取りを手中に収めたジョーカーは、その切り札をどう利用するのか?これもかなり興味津々。ところでジョーカー、もしかしたら獅子身中の虫なのだろうか……?彼の今後の動向には期待大。
 それと、本巻に付録としてR.O.Dのテレーディング・カードが付いてきていたんですが……要らねっす。しかも、何故にファウスト?どうせだったら読子が良かったよぅ〜〜(泣)。
 最後に。英国諜報部MI6って、もう無くなってたんですねェ〜〜。俺は全然知らなかったッス。バンコランは一体どうなるんだろう?

R.O.D ―第六巻―
  評価点:65点  刊:集英社スーパーダッシュ文庫  著:倉田英之(スタジオオルフェ)  絵:羽音たらく
   いやぁ、相変わらずお話が進みませんねェ〜〜。まぁ、俺も人様の事コレっぽっちも言えた義理じゃないんですが、まぁンな事気にしていたら世の中渡っちゃいけません。
 で、お話は進まないのですが、今回のお話の焦点を二つ程。一つは一読者・読子=リードマンと超マイナー作家・筆村嵐のやりとり。直接ドツキ合いする読者と作家ってのはまぁどうかと思うけど、読者のエゴと作家のワガママの大激突は面白かったです。電車の中でニヤニヤしたオッサンサラリーマンは不気味だった事でしょう――ちなみに、俺の事。
 そして、墨蕾との戦闘佳境にあるナンシーの胸中を綴る一文。
   あの女に計算・打算・理屈そんなものは、ありはしない。
   呆れるほど正直で、素直で、バカなんだから。
   だから人を動かし、人を変える事ができるのよ。
 たったこれだけの文章に、読子の全てが注ぎ込まれているようで、とても印象に残った。
 あとはまぁ、本に対する読子の所見やらなんやらと、色々と乱れ混じる各人の意見とその対立が面白かった、ってところですかね。
PS:ジョーカーの今後の動きが相変わらず気になるね。

R.O.D ―第七巻―
  評価点:50点  刊:集英社スーパーダッシュ文庫  著:倉田英之(スタジオオルフェ)  絵:羽音たらく
   外伝。大英図書館特殊工作エージェントにして高校非常勤講師にして極度の愛書狂ビブリオ・マニアである我らが読子=リードマンのある一日を書き綴った外伝本。
 面白かったか?と訊ねられると、微妙です。読子も菫川ねねねも元気一杯に暴れ回っていて魅力的で、そう言った意味では面白かったんですが、ストーリーそのものはそれ程に質の高い物ではなかったですから。個人的には、読子の入浴シーンが良かったです。いや、世界でも類を見ない「紙使い」のエージェントが面白いほど取り乱す姿ってのは、何て言うのか微笑ましいです。まぁ、「読子らしい」と言ってしまえばそこまでなんですけどね。
 そして、読仙社四天王の昔話も一緒に収録。こっちの方が面白かったです。王炎の妹の死は、どうしようも無い悲劇でした……。
 とまぁ、走り書き程度ですが、こんなモンです。

R.O.D ―第八巻―
  評価点:50点  刊:集英社スーパーダッシュ文庫  著:倉田英之(スタジオオルフェ)  絵:羽音たらく
   外伝。大英図書館特殊工作エージェントにして高校非常勤講師にして極度の愛書狂ビブリオ・マニアである我らが読子=リードマンのある一日を書き綴った外伝本。
 面白かったか?と訊ねられると、微妙です。読子も菫川ねねねも元気一杯に暴れ回っていて魅力的で、そう言った意味では面白かったんですが、ストーリーそのものはそれ程に質の高い物ではなかったですから。個人的には、読子の入浴シーンが良かったです。いや、世界でも類を見ない「紙使い」のエージェントが面白いほど取り乱す姿ってのは、何て言うのか微笑ましいです。まぁ、「読子らしい」と言ってしまえばそこまでなんですけどね。
 そして、読仙社四天王の昔話も一緒に収録。こっちの方が面白かったです。王炎の妹の死は、どうしようも無い悲劇でした……。
 とまぁ、走り書き程度ですが、こんなモンです。

【アリソン】
  評価点:80点  刊:電撃文庫  著:時雨沢恵一  絵:黒星紅白
   キノの旅の時雨沢恵一と黒星紅白両先生のコンビが送る作品。個人的に思うのは、別に黒星先生じゃなくっても良いんじゃないか?って事。いや、黒星先生のイラストは好きなんですが、同じ作家に同じ絵師ってのは芸が無いと言うか面白味に欠けると言うかなんちゅうかほんちゅうか。
 先ず思った事は、作品に「時雨沢臭」が漂っている。あの独特の文体は、読みながら「ああ、キノの旅じゃないけど、時雨沢先生だな」って感慨に耽れます。
 そして、あの "ある種の淡白さ" が漂う文体なのに、一つ一つの描き込みが本当に丁寧で、読んでいて疲れない読み易さ。350頁以上あるのに、読み終えてみると「まだ読み足りない」と言う素晴らしさ――勿論、そこには「消化不良で物足りない」感は無い――。見習いたいものです。
 さて、お話。お話の舞台は、地球ではない何処かの星(世界?)。時代的には世界大戦が終了せずに冷戦状態に入った地球、と言った感じでしょうか。鉄の塊が空を飛ぶようになって間も無い頃ですね。
 空軍飛行士の少女アリソンと、彼女の幼馴染みヴィルが、町の法螺吹き爺さんに乗せられて「宝探し」の旅に出掛けるお話。成る程、あの宝なら、一人占めには出来ないでしょうな。ちょっと意表を突かれて良い感じ。
 そうそう、このお話の要であるアリソンは、超お転婆。でも、自分に正直で、可愛い所も一杯。元気で、はしゃぎ回って、飄々としていて、ヴィルを振り回して、でも彼の事を本気で心配して、それでいてどこかクールで、でも熱い。彼女の動き回るシーンが、読んでいて微笑ましく、胸踊ります。う〜ん、アリソンは良いね。
 そして、このお話で一番可哀想だったのは、何十年もの間、仲間を殺してしまった事に、殺さざるえなかった事に苦しみ続けたワルター。世界の平和を願う為に、仲間に向かって引き鉄を引き、その選択が正しかったのか間違えていたのか。彼は、悩み続け、苦しみ続けた。最後に彼が見た光景は、きっとどんな芸術作品よりも、どんな雄大な自然よりも、綺麗で……残酷だったんでしょう。
 最後に、カー・ベネディクト少佐。この人も良い味出してた。自分の思った事に素直でさ。まぁ、アリソンを口説き落とせなかったのは残念でした。あと一歩だったのにな(笑)。
 うん、面白かった。

【アリソンU 真昼の夜の夢
  評価点:65点  刊:電撃文庫  著:時雨沢恵一  絵:黒星紅白
   え〜。1巻で完結しても良かったような作風だったんで、2巻が出たのは驚きです。いや、出ちゃいやだったワケじゃないんですが。
 今回もアリソンが元気一杯でした。1巻を読む前のアリソンの印象がキノの旅のキノみたいに、どこか茫洋としたキャラクターかなぁ〜って思っていたんで、それとのギャップもあってとても良い。
 今回のお話は、偽者の英雄と偽者の王女様のお話。"壁画発見の英雄" カー・ベネディクトが十年前の火事で亡くなったはずのイクストーヴァの王女を連れ帰る、ってのが、まぁ大筋。粒度が粗すぎて粗筋とも呼べない程の粗筋ですけども。
 そして今回もカー少佐が恰好良かったです。イクストーヴァ王女を口説いたり、ニトヒー議員を "ぐー" で殴ったり。1巻に較べて活躍の場が飛躍的に多くなりました。でも、何故か彼の活躍は「二枚目」じゃなくで「三枚目」なんだよなぁ。これは時雨沢さんの陰謀か?!
 ンで、ヴィルを夕方までに返すと言われた後のヴィル友人の熱弁。彼も中々どうして、良い味を持っていました。
 まぁ、こんな所。アリソンが可愛いです。

【アルティメットウォーズ 遠く長い闇の終わりに
  評価点:45点  刊:集英社スーパーダッシュ文庫  著:林日出夫  絵:中村龍徳
   まぁ、読めなくは無かったけど、それ程面白い作品でも無かったですね。暇潰しにどうでしょうか?
 時は2031年。21世紀初頭に勃発した同時多発テロを契機に、世界は経済恐慌に見舞われた。恐慌の中、貧しい者は無け無しの財産を奪われ、豊かな者は私財を更に膨らませた。肥大した貧富の差を埋めたのは、精神上の悦楽――血湧き肉踊り、時には選手の死さえも辞さず、寧ろ望まれる狂気のギャンブル & エンターテイメント『アルティメットウォーズ』。一言で言えば、"アメフト" + "フライングディスク" + "格闘"
 主人公は『アルティメットウォーズ』の最多得点記録を持ちながら、観客の要望――つまりは、殺人――には決して応えない選手バトラー・橘健。『アルティメットウォーズ』が原因――まぁ、結構副次的な原因ではあるけど――で家族を無くした少女・矢野友美。2人は出会い、そして……。
 と、そこらへんで引いてみましたが、まぁ、言ってしまえば単に友美が健に一目惚れしたようなものですね。あれ程世間の冷たさを知っている友美が、見ず知らずの健に簡単に心を許すのはさ、なんて言うのかあまりにも展開に無理があるでしょう。短編小説――ここでは、1巻完結って意味ですが――の限界なのかな?赤の他人同士だった主人公とヒロインが、無理矢理くっついてしまうのは。そうなるとやっぱり、短編では主人公・ヒロインは幼馴染みとかにするべきか?!――ああ、関係無い事くっちゃべってら。
 それはそれ。クライマックス直前までは結構楽しめるんですけど、残り少なくなったページで無理矢理全部をすし詰めにしようとして、収集が付かなくなった感が否めませんね。もう少しこう、健と友美の仲の進展を丁寧に描いていればもっと面白くなったと思えただけに、非常に残念。
 時事ネタ(同時多発テロ)に走ったり、世界観に深味が無かったり、まぁ作品の全体の質は、それ程高くありませんが、文章はそれなりに楽しめます。

【アンジュ・ガルディアン 〜復讐のパリ
  評価点:70点  刊:富士見ファンタジア文庫  著:年見悟  絵:椋本夏夜
   イラストレイターに惹かれて買いました。
 面白かったです。主要登場人物は主人公の少女マリー・デイヨン。殺人者エリック・ペトニュス。そして、人物ではないが、マリーの持つ三本目の怪異なる腕アンジュ。他にもマドンナ・リリィの面々や、テオフォル・ダンジェンヌ警部など、良い按配でスパイスを利かせてくれるキャラクターも登場するけど、まぁある意味で彼らはいなくても物語は成り立つ(いてくれた方が面白いんですけどね)。
 次いで、物語の主軸は両親を残虐な手口で殺されたマリーの復讐劇。その復讐劇の先にある何かを、マリーはどうやって見つめるか?の成長。そんな所か。
 物語全体を通してシリアスな雰囲気を醸し出すけど、構える事なくスラスラと読める点はGOOD。クライマックスバトルがちょっと消化不良気味だったのはBAD。けど、書き込みは丁寧でストーリーも纏まっていて、全体としては非常にGOOD
 個人的に見所だと思うのは、マリーのリュート演奏のシーン。復讐なんてぇ後ろ暗い道中を旅して来たマリーが、本当に楽しそうにリュートを爪弾く情景が、読み手の心も楽しませる。そんな、心に残るシーンでした。
 短いけども、まぁ以上です。
PS:個人的に好きなキャラクターはテオフォル=ダンジェンヌ警部殿だったりする。

【アンジュ・ガルディアン2 〜惨劇の聖夜
  評価点:80点  刊:富士見ファンタジア文庫  著:年見悟  絵:椋本夏夜
   プロローグがあの場面であったのが謎だ。
 ってなワケで、アンジュ二作目。クリスマス初日の晩、"戦いの寸劇" を模した奇矯の殺戮者達によって引き起こされた殺戮劇。その殺戮劇の "エモノ" の中に、守護天使アンジュ・ガルディアンを背に持つ少女・マリー=デイヨンの顔見知り・エドガーが混じっていた。エドガーはマリーに「アンジュの秘密をばらされたくなければ、自分の為に殺戮者達が持つ "" を奪って来い」と脅迫した。エドガーに脅されていると言う事実が気に入らないなりに、殺戮者達の行為が気に入らないマリーは、その惨劇の渦中に身を投じた。
 とまぁ、そんな感じで始まる物語。本作品を読みながら(and読み終えて)思った事を幾つか列挙しますと、まず何よりも『エドガーが気に入らなかった』。初め、保身の為にマリーを脅したのは、まぁ弱い人間としてある意味の「仕方なさ」があったと思う。しかし、取り敢えずにしろ自分の身の安全が確保された後、この外道はマリーに対して「お前は売れっ子の吟遊詩人トルバドゥールだ。俺とともにパリを離れ、今後は俺の為に稼ぐんだ」「どっちにしろ嫌とは言えないはずだ。お前みたいな、三本腕があって、こそこそ生きなきゃならない女はな!」と吐き捨ておったわ。何が気に入らないって、そりゃ「テメェみたいな外道が、他人を蔑む権利は無い!」とも思ったけど、それ以上に「他人の弱みに付け込み、ただ自分が多少の楽をしたいが為に他人が手にしたささやかな幸せを奪おう」とするその態度。何でだろう、この瞬間、大人気なくエドガーに殺意さえ覚えた……。心底、気に入らなかったんだろうな。俺の中ではこのエドガーなる貧乏人、ラトゥール卿以上の悪人として記憶されている。ヤツが勝手に野垂れ死んだ事に、同情の余地も無く、寧ろ「その程度の死」が生温いと感じた。
 まぁ、そんな人間の暗い感情に続いて。エピローグで、マリーの指にルビーの指輪が光っていましたが、その光も彼女の未来に輝く光にはかなわないようで、嬉しいです。ささやかで大切な幸せを手にする資格を、この物語の中でマリーは確かに手に入れたんだなと、胸が熱くなります。
 そして、エピローグの最後にマリーがマドレーヌへ打ち明けたお話は、果たして「指輪」の事か、「天使」の事か。マリーが手に入れたものは、信頼できる二人の若者だったのでしょうか?
 何だか、この書評を書きながら、とても嬉しい気持ちになってます……。

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