Frame ON

【タイム・リープ あしたはきのう
  評価点:75点  刊:電撃文庫  著:高畑京一郎  絵:衣谷遊
   東高ひがしこうの生徒・鹿島翔香は、気が付くと火曜日にいた。確かに自分は月曜日を過ごしていたらしいのだが――記憶が無かった。不思議に思いながらもその日は床に就き、翌朝目覚めると、そこは木曜日だった。鹿島翔香は、自分でも気付かぬうちに、時間跳躍タイム・リープを行なっていたのだ。
 とまぁ、時間跳躍物の小説。なのですが、そのタイム・リープは翔香自身の意思にはよらず、翔香の身に危険が訪れた時、それを忌避するようにして発生すると言う――エスパー魔美を髣髴とさせるような――突発性の現象だった。
 詳細はまぁ省きますが、普通の時間の流れにあるはずの若松和彦が、翔香の話だけを聞いて彼女のタイム・リープのカラクリを見破ったり予想立てたり、翔香に的確過ぎる程的確なアドバイスを与えたりと、彼の活躍にこそ目を見張るものがありましたね。理路整然と並べられる理論を楽しめる方にお勧め。
 ところで、『クリス・クロス』の江崎新一の微妙な絡みが、今後の作品傾向にどう関わってくるのかが、非常に気になります。

【大嫌いな、あの空に。】
  評価点:60点  刊:集英社スーパーダッシュ文庫  著:花田十輝  絵:塩崎雄二
   ベッタベタなラブコメ小説。しかも、コメディ(喜劇)部分が全く笑えねェ。文体に引かれる所があるわけじゃなく、一人称作品とは言え、あまりに口語的過ぎて、却って馴染み難かった。これ、読後感想書くのがある意味楽しみだと思い、気が滅入りそうなこの作品を読破。
 読み始めの感想  「うわ……こりゃ読めん……。つまらなさすぎる……」
 読み途中の感想  「うん?結構普通じゃん。つまらねェコメディタッチも無くなってるし」
 読み終わりの感想 「……面白いジャン……」
 てな感じ。正直に言います。読み初めの時点では、はっきり言って俺的採点は僅か20点!!それが読み終わってみると、しんみりと哀しく、そして切なく。でもどこかに暖かさの残る面白い作品に、完璧に印象が変わってました。
 「ベッタベタなラブコメ」が大好きな人は、是非とも読んでみて下さい!!
PS:散りばめられたギャグは一級品のつまらなさです。

【ダブル・キャスト】
  評価点:80点  刊:電撃文庫  著:高畑京一郎  絵:衣谷遊
   ヤクザなサラリーマンの密輸業務に首を突っ込んで、川崎涼介は殺された。ひ弱なサラリーマンにしか見えない『武田』がまさか銃を所持しており、しかもそれを涼しい顔でぶっ放すとは、大きな誤算だったのだろう。喧嘩の場数を踏んだ涼介だったが、凶弾を避ける為の回避行動が裏目に出て、彼は廃ビルの屋上から落ちて――死んだ。
 その落下現場に運悪く居合わせたのは、偶然にも同じ名を持った東高生徒・浦和涼介。彼の体には、神の気紛れか悪魔の悪戯か、死んだはずの川崎涼介が乗り移ってしまった――。川崎涼介は、『自分』の仇を討つ為に、浦和の体を借りて、僅かに残った人生の延長時間を復讐の為に行動し始めた。
 成る程成る程、主人公2人の名前を同じ『涼介』にする事で、小説の中ででも「あれ?この人物の今の人格は、一体誰なのだろう?」と読者を混乱させる手法を取ったか。これは実は画期的かもしれない。
 2人の涼介が、リアルな感情を持って動き回っていて、読んでいて飽きないお話でした。川崎涼介の妹・亜紀に騙され、担がれていると知った時の浦和の怒りとか、「ああ、成る程。確かにそりゃ怒るよな」と、その場面その場面での感情に一々納得したり。
 そう言う人物だけでは無く、練りこまれるストーリー展開とか、緊迫するクライマックス、そして何より、最後の最後で男を魅せる浦和涼介――。高畑氏の描く男性主人公は、皆、芯に一本堅い意思を持っていて、とても魅力的ですね。

【ダミーフェイス】
  評価点:50点  刊:角川スニーカー文庫  著:映島巡
   角川ミステリー倶楽部第1期作品。
 読み始めは掘り出し物と思ったんですケドねェ。読了してみると今一。
 文体は好きです。読み易くて、余分な物は確りと省かれていて。でも、肝心なミステリーのあたりがねぇ。そこいらへんの歴史的背景を知らず、かつ興味も無い俺には厳しい物がありました。それとも、ただ単に俺がミステリーに対して素直になれないだけなのでしょうか?
 でも、主人公格の二人、相原依理と吉井柊子の二人は結構元気に動き回っていて良い味出してましたね。
PS:依理の母親も良かった。

【弾丸ワイルド・ボーイズ 危険がライジング、ついでにハッチング
  評価点:55点  刊:ファミ通文庫  著:富永浩史  絵:てんまみさお
   うい。作品に勢いがあり、ノリは良かった。でもまぁ、そのせいかどうかは知りませんが、文章自体が軽薄で幼稚な印象を受け、ちょっと減点。
 暮里高校の1年生、弾丸名物男・長良川昇と、その相棒・愛媛屋紳一の二人だけの冒険部々員と、何故かその二人の暴走に巻き込まれるドジで乙女チックな同高校一年生・草薙香澄、その友人・松戸圭子(や、その他の同校高校生達)のハチャメチャコメディ。コメディとは言っても「笑える」のでは無く(←微妙に笑える面もあるが)、ただ「爽快」な気分になれる。つまりは、それが冒頭で語った「勢い」ですね。
 物語は二人の冒険部々員を中心に、野外活動系クラブの内情を面白おかしく大きく誇張しつつ描いています。生物部内に野外活動最強の野鳥観察バード・ウォッチング班があったり、忍者部があったり。
 恐らく今後の展開は、草薙香澄が色々なクラブ間を情け無く渡り歩きつつ、それぞれのクラブで冒険部絡みの騒動に巻き起こされる様を描いていってくれるでしょう。因みに今巻では園芸部→生物部でした。
 点数自体は何気に低めですが、実は続きに期待しています。ついでに、色々な生物・植物の生態系にも少しだけ詳しくなれます。

【探偵SUZAKUシリーズ 黄泉津比良坂、血祭りの館
  評価点:40点  刊:徳間文庫  著:藤木凛
   うみゅ〜〜。面白かったと言えば面白かったですが、最後の最後でイヤンな作品に仕上がってしまっていました。
 余りにも排他的で、婚姻ですらその血族の中で繰り返される富豪・天主家。その中で繰り返されるあまりにも残忍な殺人事件を追って、探偵・加美が悪戦苦闘する……。でも、主人公は小坊主・聖宝こと本名・朱雀十五。でも、主人公の彼は殆ど活躍の場面はありません。
 加美が聖宝の何気ないヒントから、起こり続ける怪事件の謎を解いていく件は興味深かったのですが、最後の最後のどんでん返しが宜しくない。結局、事件の犯人は『人』では無く『呪い』ですか?これでは、折角論理的に組み立てられてきた推理が全て瓦解するだけじゃないですか。それさえなければ満足な作品だったんですが……。それとも、全ての謎が続編「黄泉津比良坂、暗夜行路」で解決されるんでしょうか?それなら、俺に文句はありません。
 とまぁ、最後の章まで読まないのでしたら、大変満足のゆく作品でした。

【チョウたちの時間】
  評価点:35点  刊:徳間デュアル文庫  著:山田正紀  絵:緒方剛志
   疲れた〜〜。難しかった〜〜。
 と、読後感想としては少々何かが間違えている事を呟いてから。まず初めに、ひどく抽象的だった。それは形容であり、修飾であり、物語であり。全てがひどく抽象的で捉え難かった。だからこそ面白いのだが……中身を読んでて珍粉漢粉。でも、物語が支離滅裂とかではなくて、ただ「(小)難しかった」。これは例えるならば、子供が量子力学の専門書に目を通すようなもの。俺の脳味噌では理解の範疇を大きく超えている。曰く「空間志向型」、曰く「ブラックホール生命体」。その他あまりに多くの、「認識」を超える存在と理論。脳味噌が中途半端に良いと過信してる程度の人には、これは厳しい。物凄く頭が良ければ全てを理解し得るだろうし、物凄く頭が悪ければ理解する事を初めから放棄しているだろうから、普通に読めると思う。
 次に、物語が中途半端に完結している。結局「やつら」の正体は解からなかったし、主人公達の戦いの行く末も語られる事は無かった。それがひどく不満に思える。
 ンで、良かった所。歴史的物理(量子)学者がリアルタイムで活躍(って程でも無いけど)していて、何だか新鮮だった。
 お話や語り、文章表現等は結構俺の趣味に合ってたんだけど、何分難し過ぎた為、後半を読むのが非常に辛くて、点数評価がかなり辛いです。でも、同程度の点数付けした作品よりも、ずっと面白いんですケドね。
 「私は物凄く頭が良い」と言う自負があるお客様。御一読の上、俺に詳しく教えて下さい(笑)。

【追伸・こちら特別配達課】
  評価点:75点  刊:ソノラマ文庫  著:小川一水  絵:こいでたく
   良い感じ。これは随分と昔に発売された「こちら特別配達課」の続編。前作はそこそこのレベルをキープして、暇潰し程度の面白さを持っていたのですが……今回はパワーアップしました。
 物語は、郵政省現業部門郵政事業庁郵務部特別配達課――通称「特配」――のメンバーの奮闘記(?)。
 特配は、郵便物の料金さえ払って貰えれば、指定の時間に郵便物を届ける郵便屋さん。但し、届ける物に制限はない。手紙だろうと小包だろうと、果てには自宅を運んだ事さえある(詳細はこちら特別配達課の方を読もう)。その特配が、郵政省のライバル、つまりは宅配便に対抗して作った高速配達網G-NETの出現で業務停止処分を受けた――簡単に言えば、リストラだ。特配は自分達の存亡をかけて、G-NETに直接対決を挑み、自分達の存在意義を見せつけようとするのだった。
 見所は全部で三つ。1つは、特配九班班長(同時に主人公)・桜田美鳥 vs 走り屋TBNTurbine Blade Nymphet)・舞島ちはるの爆走レース。手に汗握る走行シーンは、ゾクゾクと緊張感が湧いてきます。
 2つ目は、特配九班副班長(同時に主人公その2)・八橋鳳一 vs 郵政省のお偉いさん・灘竜也による、京都巡り郵便配達勝負。こちらはスーパーキャブを乗り回す八橋の視点から見た、少しトボけた勝負感。京都の情緒をしみじみと感じさせながら、それでもやはり忘れていない勝負の緊迫。そのミスマッチな組み合わせが気に入ってます。
 最後は、ラストのラスト、美鳥と鳳一の恋愛終点。「男が持って回った言い方するんじゃないわよ!!あたしは言わないわよ、その続き!!」と、怒りながらの美鳥は、いつもと違って可愛かった。こう言う一面を持つ女性って、守ってあげたくなりません?
 なんて言うのか、こう言うのを読み終えると、妙に郵便局員になりたくなる。

【ツイン・ヒート 暴走!甲蟲都市ゴーザム
  評価点:70点  刊:ソノラマ文庫  著:岡本賢一  絵:鈴木雅久
   岡本作品は、'90年代初頭テイストの古くも懐かしい作風がウリですね。本人がそれを喜ぶかどうかは別にして。
 ワムを友とし、彼達を操る術に長けた蟲使いワークスの少女、シャロルド=ラグラ=フォールン。ドルタレンを用いて身体能力を強化させ、その力を以って敵する者を薙ぎ倒す強化甲兵ドルターの少女、リリー=フィン。
 片や静かに強い心根の少女と、片や激しく優しい性根の少女。二人の少女の熱い魂の物語――。
 途方も無く巨大なワムゴーザムが暴走した。大地を削り、揺るがし、ゴーザムは疾駆する。このままでは国が一つ、ゴーザムによって踏み潰されるであろう。暴走するゴーザムを止めるべく、《アーの国》からはシャルが、《ウーオンの国》からはリリーが派遣された(他にもメンバーはいましたが)。決死のダイビングでゴーザムの背に飛び乗った二人が見た物は?!
 ってなのが、まぁ大まかな話。面白かったです。ただ、色々と「展開に無理がある」と言われても否定できなような個所もあり、そう言うのを許容できない人には厳しいかな?あと、初めにも述べましたが、「古臭い」作品が嫌いな人にも厳しいでしょう。そうでない方は、是非ともご一読下さい。

【ツインヒート 神喰い蟲[上][下]
  評価点:65点  刊:ソノラマ文庫  著:岡本賢一  絵:鈴木雅久
   ツインヒートの続編。まぁ、変わらず古いテイスト漂う、それを「味」にする作品です。
 まぁ、それなりに。面白かった事は面白かったですけど、展開が強引で早すぎますね。あと、神の蟲ワム・ド・ワムのショボさに笑える。それはそれで「少年漫画的強さのインフレーション現象」を楽しめますね(つまりは、神の蟲ワム・ド・ワムは噛ませ犬)。
 内容的にはそんなもの。ただ、文体はすらすらと読めるので、電車の中のちょっとした暇潰しにどうでしょう?
PS:鈴木さんのイラストは、何気に俺の好み。

【月と貴女に花束を】
  評価点:50点  刊:電撃文庫  著:志村一矢  絵:椎名優
   月の魔力に当てられて自身を獣人へと変える力を持つ異形の人狼族と、神話や御伽噺の中でしか伝えられない別の異形との戦い……の、ファンタジー小説。
 まァ、読めない事はなかった。とっつき難い文体でもなく、とっつき難いストーリーでもなく、とっつき難いキャラクターでもなく。でも、短所も無く長所も無くな、どこか味気ない作品感は否めなかった。どこにでもあると言えばどこにでもあるストーリー展開、ありふれた設定、教科書通りの文体、良くも悪くも「巧く」感動を伝える場面。俺の小説も人様の事偉そうに言えた義理じゃないんだけど、そう言った長所も短所も無い作品に思え、逆に感動を殺してしまっている感を否めなかった。
 さて、続編を買おうかどうか……。決してつまらない作品ではなく、ただ面白くなかっただけに、この先作者の手腕が上がらないとも限らないし……。と言う、前途有望なのか無謀なのか微妙な作品でした。
 取り敢えず、2巻を買ってから、その先も決めましょうかね。

【月と貴女に花束を2 幼龍の少女
  評価点:50点  刊:電撃文庫  著:志村一矢  絵:椎名優
   なんて言うのか、一巻に引き続き、また微妙な作品。それなりのレベルをキープしつつも、「面白い」と手放しには喜べない。だからと言って、「つまらない」と吐いて捨てるほどでもなく。一巻よりも文章とかは面白くなってはいるのだけど、ストーリーその物は王道を走っている。打ち寄せるような感動はなくても、しんみりと来る感動は忘れない。良く言えば「丁寧な」、悪く言えば「面白みに欠ける」作品。そう言うのが好きな人には物凄く受けそうだが、そう言うのが嫌いな人からは激しくブーイングを食らいそうな、評論に困る作品です。
 そんな塩梅な作品なもので、通勤・通学の電車の中や、聞きたくも無い講義の最中などの暇潰しの役には立ちます。
PS:一巻の時も思ったのだが、主人公・月森冬馬(つきもり とうま)の父親の名前が気に入らない。何故かと言うと、月森相馬(つきもり そうま)だから。理由がわかる人(仲間内のみ)には理由がわかる。

【月と炎の戦記】
  評価点:60点  刊:角川スニーカー文庫  著:森岡浩之  絵:小菅久実
   お話を端折りすぎるくらい端的に要約すると、月(月読つくよみ)と炎(火倶土かぐつち)の戦いを記したお話です。すげぇ、タイトルだけで全てを語り尽くした!!
 冗談だけど俺が言うと冗談に聞こえない本音はさて置いて、物語の舞台は古代よりも更に昔、神々が世界を統べし神代の頃。丁度天照あまてらすが天の岩戸にお隠れになった時。世界は闇に覆われていた。
 その闇に跋扈する魔物=みずちを退治する命を受け、狩人の少女・カエデは旅立った。その道中でカエデは熊の妖に食われそうになり、運命を呪う代わりとばかりに月の神に悪態を付いた。耳障りな悪態を聞き付けて、肉食の大兎・露睡つゆねぶりを騎獣に駆りてツクヨミは舞い降りた……。
 まぁ、出だしはそんな感じ。個人的にはツユネブリの皮肉とカエデの横暴と、その二つを涼やかになすツクヨミの対応が好きです。漫才チックで。あとは、そうですね。神剣・天尾羽張が登場する事でしょうか。この作品ではきちんと『アメノオハバリ』と発音されています。
 物語的には、最期の星の誕生が美しかったくらいで「それなり」でしたが、充分に楽しめました。あと追記として、物語の語り口が皮肉気で俺は好きです。

【月と闇の戦記 <一> 退魔師はがけっぷち。
  評価点:45点  刊:角川スニーカー文庫  著:森岡浩之  絵:草川遊也
   月と炎の戦記の続編。時代は経過し、現代。退魔師を生業にする菊名隆雄の所持金は\1,782――侘しい彼の下に舞い込んだ依頼は「洋館の幽霊を退治してくれ」と言う物だった。生きるに必要な金を稼ぐ為、隆雄はいざ洋館へと乗り込んだ。
 どう説明したものか……まだまだ物語のプロローグなんで、あまり語るべき事は無いんですが。まぁ、軽く登場人物にでも触れながら。お茶を濁しましょう。
 菊名隆雄。赤貧退魔師。経文を唱える代わりに霊を相手に「出てってくれ」と頼んでみたり、呪符を巻いて霊を払う変わりに木刀でドツいてご退去願う、微妙なヤツ。悪いやつでは無いんですが、色々とまぁ、空回りしています。
 女性霊。隆雄に洋館で出会った女性霊。口が悪いです。
 伊勢滋也。自らを「神」と名乗る謎多き青年。月と炎の戦記を読んでいれば、正体丸解かりだけどね。
 伊勢楓。滋也の妹の美少女。彼女も謎が多い。が、やはり月と炎の戦記を読んでいれば以下同文。
 ツユネブリ。伊勢兄妹の飼う白兎。肉じゃがの肉だけを食べる偏食兎。あまり喋りません。ええ、そりゃ兎ですから。
 前半3/4はこれら主要人物の人物紹介チックに会話が進められる、って言う感じだった。大真面目で自分達の素性を語る伊勢兄妹と、その話を頭から信用しようとしない隆雄の会話が、結構ノリが良くて面白かった、って感じですね。
 ラスト1/4でようやく物語が動き始めます。村西結宇に降り掛かる突然の災厄達の正体は一体?!緊張の展開のまま、以下次巻。

【月と闇の戦記 <二> 守護者ガーディアンはぶっちぎり。
  評価点:50点  刊:角川スニーカー文庫  著:森岡浩之  絵:草川遊也
   物語は少しずつ走り始めたけど、まだまだ謎を多く残しています。「あの方」とは一体誰なのか、楓は隆雄をたぶらかして何をしようと言うのか?隆雄の持つ力とは?!
 そんな数多くの謎の中から、一つだけ解かった事。結宇を狙うイフカ八人衆の正体です。大鳥、火田、土谷、黒磯、伏見、若井、柝間、鳴瀬ってのがその姓なんですが、彼らの本名は「大雷丸」とか言うそうです。――ああ、成る程なって。普通な名前だったから全然気付かなかったけど、アイツらだ。って事は例の「あの方」は月と炎の戦記でも登場しましたあの方でしょうかねぇ?……解かりませんが。
 ちうわけで、日本神話の裏話がどうストーリーに盛り込まれるのかに期待です。

【デモン・スイーパー 運命さだめを刻まれしモノ
  評価点:40点  刊:角川スニーカー文庫  著:関口和敏  絵:中北晃二
   う〜ん。まんずまんず。それ程特化して楽しめた物でも無かったですが、読むのが苦痛である程つまらなく無く。まぁ、展開はそれなりにメリハリがありましたが、インパクトに欠けますね。――あ〜、はいはい。自分の事は棚に上げてますよ〜だ。文句ある?(←開き直り)
 内容は、簡潔に言うと妖怪退治物。ただ、妖怪の存在が読み手の時代に合わせてか、「情報」と言う形で蓄積されて存在出来ると言うふうになっている(作中では、妖怪では無く神だけどね)。妖怪とかの超常存在を科学的に釈明しているようで、そう言うのが少々嫌いな俺にはちょっと不満(例外的にそう言う超常存在が居るのなら構わないのだけど、そう言う存在である事が大前提って言うのはねぇ:まぁ、趣味の問題ですね)。
 続編が出るみたいだけど……買うかどうかは非常に微妙。金と暇があったら買います。

【天国に涙はいらない】
  評価点:15点  刊:電撃文庫  著:佐藤ケイ  絵:さがのあおい
   アブデル様!!その通りです!!私は一生貴男に付いて行きます!!美少女とは清純!美少女とは健気!美少女とは運命の不幸を背負う!そして、美少女とは天然!!!たまちゃんは正にその理想!!たまちゃん萌え〜〜(爆)。さァ、これを聞いて『グッ!』と来た人。今すぐ本屋へ行ってこの本をGetだ!!……俺は古本屋行ってさっさとDumpしたい気分ですケドね。
 読むの、疲れた……。何て言うのか、つまらない。上記のような人にはお勧めですけど、そうでない人には勧めるつもりは皆無。と言っても、美少女好きな人を差別しているわけではありません。俺は「美少女撲滅運動会会員」とか、そう言った凝り固まった思想の持ち主ではないんで。だからと言って、「美少女萌え萌え保護協会会員」とか言った、また別な意味で凝り固まった思想も持ち合わせてはいないが。
 これ、一応『第7回電撃ゲーム大賞金賞受賞作』なので、少なくても審査員にはウケが良かったはずです。それが、「これは一流の作品だ!」って言う意味でなのか、「たまちゃん萌えLOVE〜〜」って言う意味なのか、「これだったらウチの読者層に『売れる』だろう」と言う意味なのかは解かりかねますが。少なくても、俺には一言『駄作』に思えた。ストーリーはひたすら単調。ラストで盛り上がるが、はっきり言って薄っぺら。全体的に口語調で取っ付き難かった(口語調のストーリーは、取っ付き易さが利点であると同時に、扱いを間違えれば取っ付き難いと言う欠点に早変わりする、と言うのが俺の持論)。キャラクターもなんか「立って」いなかった。敢えて新鮮さを挙げるなら、ラストで主人公が死んでしまう事だが、「それがだからどうした?」程度でしかない。しかも、心の拠り所になったばかりの主人公が死んで、たまはその哀しみからどうやって立ち直ったかについて、毛ほども触れていない。あまりにもそこらへんが御座なりすぎる。
 これでどうやって金賞受賞したんだ?と思ってしまった。俺が審査員だったら、間違い無く選考第一で落とす。
 なんだか自分の作品棚に上げて扱き下ろしていますが、俺のこの書評読んで怒り狂われても困ります(入口で警告したから解かっているとは思いますが)。鶏肉が他の何よりも好きな人もいれば、見ただけで嘔吐感を催す程に嫌いな人もいる。はっきり言い切ればその程度の差異です(逆に、俺お勧めのM.G.Hが嫌いな人もいるでしょうしね)。

【道士リジィオ4 刻の静寂
  評価点:50点  刊:富士見ファンタジア文庫  著:冴木忍  絵:鶴田謙二
   副題、「ときのしじま」と読みます。
 五つの短編からなる道士リジィオの第四篇。三巻からのブランクが長かった割りに、実は「ファンタジアmini文庫(だったかな?)」からの流用が四作と、mini文庫の方を読んだ俺には、少し不服な一冊。だが、一作一作は、まぁ、それなりのレベルを保っている。それでも、冴木忍先生の全盛期を思うと、随分と見劣りしますな。『<卵王子>カイルロッドの苦難』シリーズが懐かしい……。

【時の果てのフェブラリー ―赤方偏移世界―
  評価点:90点  刊:徳間デュアル文庫  著:山本弘  絵:後藤圭二
   俺の尊敬する山本弘先生の作品。200012月に徳間書店から発刊されているが、実は11年前(2001/03/09現在)に角川書店から発刊された物を再版した作品らしい。その頃の作品を読んだ人でも、加筆修正が大幅に成されているらしいので、読んでみる価値があると思われる(俺はこれが初めてだったけどね)。
 で、書評。やっぱ良いね。確りした理論背景に基づくSFは最高。しかも、SFのハードな重みだけでは無く、人と人とのハートの繋がりも大事に暖めた柔らかさ(と、同時に重さ)もじっくりと練り込まれていて、読み耽る中でジーンとくる。
 話は、地球上の突如出現した <スポット>(Singular Point Of Turbulance:乱流の特異点)を巡る地球規模の災害から始まる。世界各国の科学者・物理学者を含めた学者が頭を揃えても解明できない非物理現象の吹き荒れるその <スポット> の原因究明に、オムニパシーと呼ばれる超能力(超常能力では無く、あくまでも超知覚能力を持つ者。非常識ではあるが、非科学では無い。常人よりも直観力に秀でていると思ってもらえば良い。と思う……)を有する11歳の少女・フェブラリーが乗り出す事から始まる。
 常識の物理では考えられない異常時間軸・螺旋雷と呼ばれる怪現象・異常重力地帯。それらを「虚数仮説」(架空理論。山本先生曰く『大ボラ』)でもって少しずつ解いて行く。その架空理論を裏付ける細密なディテールと数々の実存理論。それらが複雑に絡み合い、実在理論に何の遜色無く作られている。
 面白いのはそのSFだけではない。人の心の流れ。フェブラリーとバートの微妙な親子愛の絶妙な兼ね合い。地球人とは言語どころか思考構造も回路も、愛情表現も欲望も全く異なる異星人との交流。一つ一つの感情の表面だけでは無くその裏の裏にまでしっかりと根を伸ばした、時に重厚に、時に柔和に、その時々にあった緻密な表現・描写。
 圧倒的な文章力と科学知識、感情機微の掘り下げ、スケールの壮大さ。「ハードだけでなくハートも大事(後書きより)」の言葉には、山本先生本人の過信で無い自信が込められています。
 SF好きな人には御満悦戴ける一品ですよ、だんな。
PS:ネタバレになるが、<スポット> は異星人が創り出した物なのだが、この理由を「壮大」だと思うか「ショボい」と思うか。これは実際、読み手によって大きく異なると思う。壮大過ぎてその壮大さが理解できない可能性も高い(万里の長城を間近で見ても、その大きさが実感できないような物)。それとは関係無くショボいと思う人もいるだろうが。

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