天秤 ―Is more Fright? or Love?―
4th chapter
それから、どれだけの時が流れただろう。呆然としたまま、惨劇の場に残された親子は静寂を守っていた。
ポツリポツリと雨が降り始め、その内、静寂を破る雨に成った。
ティプラの脳裏に、醜い血の花を咲かせて散ったボドギーの姿が離れず消えない。雨に、体に付いた血は流れ落ちる。トロリとした、奇妙な感触を残して流れ落ちる。
静寂の時の中で、少しずつ自分を取り戻し始めた。取り戻す毎に、自分の仕出かした所業を理解し始める。そして、自分自身を恐れ始めた。
辛うじて泣き出さないでいられるのは、まだ自分の所業を完全には理解できていないから。それでも、恐かった。逃げ出したかった。恐怖を拭って欲しかった。
それを求めて、錆びたロボットのような緩慢な動きで首を動かした。見詰める先にあるのは、まだ呆然とする、最愛の母。
「ママ……」
泣き笑いにも似た、悲哀の顔で、そう呟いた。
助けを求めて。優しく抱き締めて欲しくて。
ラファは……。血に濡れた衣装の娘を見ながら、右へ、左へ。ゆっくりと首を振った。
「化け物……」
逃げ出した海賊達の言葉が脳裏で反芻され、彼女もそのまま呟きを洩らした。
「化け物……!」
もう一度、呟いていた。意思に反してと言うよりも、無意識の内に、唇が勝手に動き、声帯を震わしていた。
「化け物おおおぉォォォォォォォォ!!!!」
呟きが叫びに成った時、ティプラは、雨の音を突き破るように泣き出して、走って逃げ出していた。