天秤 ―Is more Fright? or Love?―
1st chapter

 バーン!!
 爆発する音は、爆弾でも燃える気体でもない。
 町外れの草原地帯入口。草の萌える匂いが風に乗り、鼻に優しく薫る。
 パラパラと降り落ちる灰色の煙と粒に目をパチクリとさせながら、少年達は口をアングリとさせていた。さっきまで確かに目の前にあった拳大の石が粉々に砕け散った様に、驚愕の表情を見せる。
 遊び仲間のその反応に満悦して、少女は得意そうに鼻の下を指で擦った。
「スッゲーー……」
 呆然と、ビルアレイ――男・7歳――が呟いた。
「うん。凄い」
 少し意識をはっきりとさせて、マリア――女・8歳――も呟いた。
「スッゲーじゃん!!ギフトを貰えるなんて!!」
 最期に、リーン――男・8歳――が、興奮気味に叫んでいた。
 仲間の反応に、半ば予想気味だったとは言え、やはり気恥ずかしく、ティプラ――女・7歳――は頭を掻いて
「そんな……」
 と、曖昧に答えた。
 ティプラは、小さなこの港町においては中流な――しかし、大きな商業都市などの目線に合わせると下流に入る――漁師の家庭の一人娘。気さくだが剛直な父・カトスと、厳しいが優しい母・ラファと三人で、沢山の愛を注がれて、それよりも沢山の愛を注ぎ返して、幸せに暮らしている。
「いつなの?いつ、ギフト貰えたの?!」
 リーンの声に我を取り戻したマリアが、ティプラの手をしっかと握りながら、――リーンのそれが伝染ったのか――興奮気味に捲くし立てた。
「多分……今朝……」
 思わぬ勢いに押され、ティプラは少し焦りを見せた。
「起きて朝ごはん食べてたら、何だか急に、こう、フワッとした感覚で……。良くわかんないけど、何か出来そうな気がして……」
 漁に出ない日でも仕事に余念のない父に合わせた早い朝食を終えてから自分の部屋に戻って、試しにお気に入りの猫の縫い包みに意識を集中させてみたら、今の石のように弾け飛んだのだ。まァ、その時はポフッと言う間の抜けた音しかしなかったが。
 直感した。これは、ギフトだと。
 ギフトとは、ある日突然目覚める、まァ、言う所の超能力だ。目覚める時の前触れも、目覚める人々の間柄も、目覚める年齢も、目覚める能力も、あらゆる方面からのアプローチも、結局その関連性を見出せなかった。ただ、ティプラのようにある日突然感じ取り、知らぬ間にその能力を扱えるようになる。それ以外には、何もわからない神様からの贈り物。
「なァ、ティプラ」
 ビルアレイが、少しおずおずとした調子で言った。
「もう、パパとママには言ったの?」
「ううん。まだ」
 小さく左右に首を振り、否定の意を込めて返した。
「教えるのは、明日の明日の明日の……明日!!」
 解かり難い言い方だが、子供達の間では、逆にこう言った廻りくどい言い方の方がよく伝わる。慣れているからだ。指折りに数えたその日は、丁度四日後の事だ。
「どうして言わないの?」
 マリアが不思議そうに尋ねた。
 対し、ティプラは、向日葵のような大きな笑顔でこう答えた。
「ンとね、その日はね、」
 それから少し間を置いて、勿体ぶるようにして笑顔を挟み、
「ママの誕生日なの!!」
 ティプラの答えに、友達三人は納得した。ギフトは、神様からの贈り物。それはつまり、神様から選ばれたと言う事であり――ちょいと選民思想入っているみたく思えるが……――、将来を保証されたような物。自分の子供がギフトに目覚めてくれて、嬉しくない親などいない。少なくても、この世界では。
 リーンもビルアレイもマリアも、まるでそれが自分の誕生日か、ティプラが自分の娘であるかのように喜び、三人が「せーの」でリズムを合わせて、
「頑張ってね!!」
 と言った。
 ミンナの素直な応援が嬉しくって、ティプラも「うん」と元気に返事を返した。その笑顔は、サンサンと昼の空で輝く太陽にも負けない、明るい笑顔だった。

to be continued...

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