『聖剣』
 人の魂の内に継がれた武具・法具。『聖剣』が積み重ねてきた歴史そのものがその強さとして蓄積され、古き歴史を持つ『聖剣』は、治癒能力や発火能力など、特殊な能力を発揮する物が存在する。幾世代にも渡って長く扱われ続けた武具や法具がそのまま『聖剣』となるのが、最も多い『聖剣』誕生の起源ルーツである(稀に例外も存在する)。『聖剣』は人の魂の内に宿り、人の魂をその鞘として普段は現世に存在しないが、『剣聖』の勅があれば即座にその存在を顕現し、『剣聖』の意に沿って働く。『剣聖』の手から離れても『剣聖』の意志によってその身を『剣聖』の魂へと納めるため、他人が使用する事は(『剣聖』の許可無くしては)不可能である。
 『聖剣』とは呼ばれているが、それは飽く迄も便宜上の事で、剣や刀以外にも、斧や弓、槍、楯、鎧、中には彼の有名なる終末の魔獣《Fenrrirフェンリル》のように、獣などの生命体の形を持つ物もあった(とは言え、本当に生命を持つ物ではなく、命無き『道具』でしかないのだが)。
 『剣聖』の死後、『聖剣』はその血筋を辿り、近しい縁を持つ者の魂へとその鞘を移す。仮に資格無き者(血縁関係に無い者)が『聖剣』を取り込もうと試みれば、ただその身と魂を食われるだけに終わる。
 『聖剣』はその古さによって区分別けをなされており、生まれてから百年に満たない若い『聖剣』を百年級センテニアル、千年〜二千年程のそれなりの年月を経た『聖剣』を千年級ミレニアム、紀元前後から存在する古き『聖剣』を古代級エンシェント、神話の時代にその名を連ねる最も古き『聖剣』を神代級ミシカルと呼ぶ。
 『聖剣』は互いに何らかの相対関係を持ち、いかに強力な『聖剣』であったとしても、必ず弱点と成り得る『聖剣』がどこかに存在する。それは、歴史になぞらえた相対関係を持つかもしれないし、全く関係の無い所で相対関係を持つかもしれない。故に、斯様かような言葉がある。「世に最強の『剣聖』はあろうとも、最強の『聖剣』は無し」。
 『聖剣』は『剣聖』一人につき、一つの『聖剣』保有できない(複数の『聖剣』をその魂に宿せる程に気高き魂を持つ人間が存在しない)。もしもそれを可能とする程気高き魂を有する『剣聖』が存在するとするならば、彼達は『神』と呼ばれるであろう。実際、神代の時代、複数の『聖剣』をその魂の内に宿す『剣聖』は、皆、神と呼ばれ崇め奉られていた。
 全くの余談だが、武宝具の形持つ物を『聖剣』、獣の形持つ物を『聖獣』と呼んで区別を付けようとする学者の動きもあったが、『聖剣』と『聖獣』の確たる違いが無かった為、すぐに廃れた。

『剣聖』
 その魂の内に『聖剣』を宿す者達の総称。
 世に、斯様な言葉がある。「『剣聖』は強い。強いゆえに『剣聖』では無く、『剣聖』故に強い」と。その言葉を裏付けるのは、『聖剣』が持つ『剣聖』の身体能力を上昇させる力にある。その上昇率は各『聖剣』ごとに相違はあるものの、『剣聖』によっては、『剣聖』でない時は100[m]を走破する事に12[sec]掛かっていた者が、その魂に『聖剣』を継いだ瞬間から、8[sec/100m]台で走破したとの研究結果さえ残っている。
 『剣聖』は、その強さの代償として、死の際にその存在を喰われる。とは言っても、別に「世界中の皆の記憶から消えて失せる」とかそんな大それた物ではない。ただ、その骸を残す事あたわず、消えて無くなるだけだ。



尾羽張おおばり 萩利はぎり
『聖剣』: 《天尾羽張あめのおおばり》 《天大葉刈あめのおおばかり》 《天羽々斬あめのはばきり》 《天十拳剣あめのとつかのつるぎ》 《天蝿斫剣あめのはえきり
説明:神代級ミシカルの『聖剣』。かつては伊邪那岐尊神いざなぎのみことのかみいた剣で、後に建速須佐之男尊神たけはやすさのおのみことのかみが受け継いだ。蛇斬りの太刀としても知られる。
 簡素な装飾の剣。その刀身は優に2[m]を越え、柄は十拳とつかに及んだと言われる超刀。剣幅は普通の剣に比べれば確かに幅広ではあるが、《天尾羽張》の比率から見れば細身な両刃もろはの剣。
性別:男  年齢:二十二歳  一人称:俺
備考:本編主人公。切らずに伸ばした髪の毛が腰まで伸びる長身の青年だが、清潔感に欠け、素材の良さをあまり発揮できずにいる。髭は剃らずとも伸びていない。
 七年前――実姉、尾羽張磨夜まやの死後、全ての意義を見失い、死なない為だけに生きる毎日を送っていた。他人の命どころか自分の命さえも「如何どうでも良い事だ」と吐いて捨てるような荒んだ心で戦い続けた結果、驚異的に剣術に磨きをかけ、現在では百戦錬磨の強者と言うまでに成長した。
 生きる意味を失って尚生き続けるのは、姉との約束を守る為。そして、それを支える「怨嗟うらみ」と言う名の、失意の彼には余りに希薄な生へのいしずえの為だけであった……。

叢雲むらくも 薙葉なぎは
『聖剣』: 《天叢雲剣あめのむらくものつるぎ》 《草薙剣くさなぎのけん》 《草那芸剣くさなぎのつるぎ》 《都牟刈太刀つむかりのたち》 《韓錆剣からさびのけん》 《大蛇麁正おろちのあらまさ
説明:神代級ミシカルの『聖剣』。かつての所有者は建速素盞鳴尊を経て、日本武尊やまとたけるのみことへと継がれた。更に以前まえにも所有者がいたようだが、不明。日本に伝わる三種の神器としては征服をしるす。
 刀身は緩やかな弧を描く80[cm]程度の扁平な片刃剣。三種の神器において「征服」を象徴すると言う謳い文句に恥じぬ、心を支配しそうな程の美しさを有する。その美しさは工芸品としての美しさではなく、威厳に満ちた神秘の美しさである。
性別:女  年齢:十八歳  一人称:オレ
イメージ画像:from 鈴原 玲花 様 (PNG 161[KB])
備考:三津草みつくさの街の自警団々長にして同街の最高責任者兼最高権力者。笑うと魅力たっぷりな少女の顔を覗かせるのだが、普段は険の厳しい表情を崩さない。着衣の上から見ると、少年に似た体躯をしているが、それは戦いの邪魔にならないようにさらしを巻いているからである。
 性格は男勝りで勝ち気。叢雲が十二歳の時、父である前任の自警団長が戦いの中で死去し、若くしてその責務を体に継ぎ、意志を魂に継いだ。街の最高権力者であるが、それもよりも先に最高責任者と自警団々長としての自覚の方が強く、他の自警団員よりも頻繁に警邏に出掛けたり、街の人々の動向に気を配り、要望に答える為に奔走し、外からの来訪者に対して敏感に反応する。街の安全に対して過剰に責任感を持つ為、しばしば融通が利かない判断をしてしまい、その都度、他の自警団員にたしなめられる。
 叢雲の一族に伝わる剣術・叢雲古流『聖剣』武術むらくもこりゅうせいけんぶじゅつの技術は不断の努力により冴え渡り、更に強くなる為にと知識として得た御座敷剣法を含む各種剣術を自分なりに昇華して吸収していった。結果、三津草の街で他の追随を許さぬ実力者となって、過去から現在に到るまで、外敵の侵略から街と三千を超える町の住人を守り通している。
剣術:叢雲古流『聖剣』武術むらくもこりゅうせいけんぶじゅつ。その理念は心身合一にあり、腕を磨いても、魂を腐らせてはいけないと教える。
奥義おうぎつい草薙くさなぎ
天叢雲剣》の刃にて火を斬り裂き、その刃に掃かれた空間に呑み込まれるようにして扇状に広げられた火力はそのまま新たな刃と化し、哀れな犠牲者へと襲い掛かる。
★奥義・つい草那芸くさなぎ
天叢雲剣》の刃を大地に突き立てる事で、大地から意志力の草葉を生み、敵を絡め取る。これは『剣聖』の精神の色合いによりその発色を変えるが、薙葉の場合は若草の色を取り、文字通りの草の芸となる。
★奥義・つい叢雲むらくも
各種体液を瞬時に気化させる事で、霧を生み出す。主な用法はその霧を用いた目眩めくらましであろう。また、各種体液とは、唾液や汗などでも良いが、叢雲はあまりそう言った物を使うのは好みではなく(男勝りではあるが、一応女性なのだ)、この奥義は殆ど使われる事は無い。しかし、手傷を負い切羽詰った時、流れ出る血液を霧状にするすべは心得ている。正直、あまり御世話になりたくない奥義である。
★奥義・つい都牟刈つむかり
単純にして明快な、ただの一薙ぎ。但しその一撃ははやく、そしてたけく。それだけを目指して遥かなる高み目指して研ぎ澄まされた、神速の一撃。常人にはその一撃が振るわれた事を理解する事なく、そっ首叩き落されるであろう。
★奥義・つい韓錆からさび
剣技では無く、剣術における歩法の奥義。蹴り足の親指から全筋肉と全関節に働く力を推進力に、初速を最高速トップ・スピードにまで引き上げ、刹那の時の中で間合いを詰める。遠距離ロング・レンジにおける戦いでは殆ど役には立たないが、中間距離ミドル・レンジ以内の戦いでは、剣の振り方や払い方なんかよりも、数倍以上の戦力としてなり得る。一応注釈を加えておくと、最高速トップ・スピードを引き上げる訳ではないので悪しからず(とは言え、彼女は100[m]を8[sec]台で優々に走破する脚力を自前で持ち併せ、それにこの奥義を重ね使用すれば7[sec]の大台に乗るが)。
★奥義・つい麁正あらまさ
高めた殺気を剣気に乗せて、相手に対する虚動フェイントを行なう。ただの虚動フェイントでは無く、極限まで高めた剣気は、相手には視認しうる程明確に映る。その気勢に呑まれれば、相手は叢雲に近付く事さえ出来ないであろう。欠点は、剣気に惑わされぬ程の達人と、剣気を微塵も感じ取れない素人には、毛ほどの役にも立たない事か。
秘奥義ひおうぎついくさなぎくさなぎ
禁じ手とされる奥義。《天叢雲剣》を通して流れ込む邪神の破壊衝動とその力を身に宿し、飛躍的に身体能力を上昇させる。但し、その力を引き出し過ぎると、破壊衝動に負け、理性の糸を断ち斬ってしまう恐れがあり、それが禁じ手とされる所以ゆえんである。また、使用後は暫く筋肉痛に悩まされると言う欠点もある。

佐土布都さじふつ 建御たけみ
『聖剣』: 《建御雷神たけみかずちかみ》 《佐土布都神さじふつのかみ》 《布都御魂剣ふつのみたまのつるぎ》 《布流剣ふるのつるぎ
説明:神代級ミシカルの『聖剣』。詳しい伝承は残っておらず、三年前に死去したもと自警団の父曰く、「雷を纏い振るうから、《建御雷神》の名を戴いた」らしい。その父の言う通り、その剣身より雷を放つ特殊な能力を持つ。時折、呼び掛けられているような気もするが……。
 刀身は2[m]と24[cm]。反り身を鍔を持たぬ片刃の直刀で、柄は並の刀剣と同程度の長さしかないのが不均一性アンバランス適合性マッチングを誘う。
性別:男  年齢:十六歳  一人称:僕
備考:三津草の自警団の一員。戦闘技術においては自警団の『剣聖』達から一歩引けを取るが、強力な『聖剣』を有する為、街にはなくてはならない戦闘力の一人である。
 行動や考え方にまだまだ未熟な所が残るが、「自警団員として街を守る」と言う事に関しては中々なかなかどうして、一端いっぱしの大人だ。
 叢雲にほのかな恋心を抱いているが、叢雲には全くと言って良い程相手にされていない。叢雲に未だその胸の内を打ち明けていないと言う腑甲斐ふがい無さも原因の一つではあるが、何より、叢雲の方が佐土布都を「男性おとこ」として意識していない事の方が要因としては大きい。叢雲としても確かに佐土布都の事を愛しているが、それは飽く迄も「出来の悪い弟として」であり、「家族として」であり、より親密な間柄としての愛情であっても精々が「仲間として」でしかない。
 当面の目的は、「叢雲から自警団長の座を奪い、叢雲を自警団から外す事」であり、その為には強くならなければいけない。そう、叢雲を守れる程に……。

八尺瓊やさかに 瓊輝たまき
『聖剣』: 《八尺瓊勾玉やさかにのまがたま
説明:神代級ミシカルの『聖剣』。色(赤色)の勾玉を長き緒にて貫き無数につらねて輪にしている。三種の神器としては豊穣をしるし、死を祓う力を持つ。多くの場合、その力は癒しとして使われるが。
性別:男  年齢:二十四歳  一人称:私
備考:丁寧な口調と落ち着いた雰囲気を持つ長身の美丈夫。先代の三津草自警団団長の時代から自警団員として街の守りの任に就きながら、医療班として怪我人や病人の治療にも当たっていた。また、死者の弔いの際には、《八尺瓊勾玉》が持つ死の祓いの力を以って、死者の冥福を祈ったりと、神父にも似た役を買っている。
 八咫伽模とは恋仲にある。
珠術:八尺瓊家伝来の《八尺瓊勾玉》を用いた珠術。死の穢れを払う癒しの術法。
珠術じゅじゅつせい繋璽つまぐし
たまを繋げる。個人の持つ自然治癒能力を上げ、傷や病を治す。その効能は高いものの、急激な効果は期待できない。また、既に自然治癒では見込みの無い患者に対しては、気休め程度にしかならないであろう。
★珠術・せい抓死つまぐし
死を抓み去る。《八尺瓊勾玉》の勾玉の一つを身に着ける事で、「死」に対抗力を付ける。死者の供養の際に用いる。また、ブードゥー教の屍者ゾンビなど、既に命を失った物に対しては強力な護符としても働く。
★珠術・せい誓約うけひ
建速須佐之男尊と天照大御神あまてらすおおみかみが行なった呪法で、それぞれの生み出した神の善し悪しで、どちらの言い分が正しいかを決定した。勾玉の一つを噛み砕き、その息吹を吹き掛ける事で、致命傷すらをも治す治癒効果を発揮する。しかし、魂の一部である勾玉を噛み砕くと言う行為はあまりに八尺瓊に対して負担が大きく、一日に精々が三度が限界。

八咫やた 伽模かがみ
『聖剣』: 《八咫鏡やたのかがみ》 《真経津鏡まふつのかがみ
説明:神代級ミシカルの『聖剣』。古くは天照大御神が天石屋戸あめのいわやとへと篭もられた時、それを誘う酒宴の席で飾られた御神器。日本に伝わる三種の神器としては平安をしるす。
 直径35[cm]程度の円盤状の鏡の周囲に、等間隔に八つの真球(直径5[cm])が陣取る。等間隔に並ぶ真球に外接する円の長さは、144[cm]で、それを中国は周代の長さの単位を用いて表わすと丁度八[咫]となる。
性別:女  年齢:二十二歳  一人称:わたし
備考:抑揚の無い声音と表情の欠落した、美貌に溢れた絶世の美女。艶やかなその美貌は、寧ろ、表情の欠落によって際立っているとさえ言える。但し、彼女は別に感情が乏しいわけではなく、感情表現に乏しいだけだ。喜怒哀楽の感情は人並み以上に持っているが、それを表現するすべを心得ていないだけの事だ。
 時折人を小馬鹿にしたような発言が目立ち、恋人であり最も心許せる存在である八尺瓊から窘められる。
鏡術:八咫家伝来の《八咫鏡》を用いた鏡術。
鏡術きょうじゅつばく逆月さかづき
直径2[m]弱の不可視の球体を作り出す。その球体は極めて高い防御能力を持っているが、外からのみではなく、内からの攻撃も通さないと言う欠点を持つ。《八咫鏡》はこれを一度に最高で八つまで創り出せる。
★鏡術・ばく天照あまてらす
鏡面に遠方の情景を映し出す。

伊真いさな 沙梛さなぎ
性別:女  年齢:二十二歳  一人称:わたくし
備考:自警団一員。戦闘要員ではなく、介護要員兼雑務要員。『剣聖』では無くいわゆる普通の人間。性格は物腰大人しく心根の優しき女性だが、時としてとんでもない脅し文句(?)で脅しをかける。

海泥麒みなずき りん
『聖剣』: 《たか衣翼いづばさ
説明:千年級ミレニアムの『聖剣』。巫女服にも似た純白の羽衣。海泥麒の命ずるままに、「服の裾が剃刀の刃のように鋭くなる」「服の袖が槍の穂先のように尖りをみせる」などの、ある程度の幅を利かせて変形する。
性別:女  年齢:二十三歳  一人称:自分
備考:赤い髪の毛を小馬の尾ポニー・テール状に纏めた碧眼の美女。赤い髪の毛は自前の髪色で、どうやら異国の民の血が混じっているらしいのだが、何処の国の血かは不明。時折混じる英語は流暢である。また、戦いの場においては、二差しの扇を用いて舞う様にして戦う。その扇は、白地に深紅の薔薇をかたどった "紅薔薇べにばら" と、桜色の地に純白の百合を象った "白百合しらゆり" の二つ。

水無月みなづき りん
『聖剣』: 《七葉なのは
説明:百年級センテニアルの『聖剣』。七枚のく型投擲器ブーメランを一組に纏めたく型投擲器ブーメラン形態の『聖剣』。水無月の意のままに飛来し、敵を襲う。
性別:男  年齢:十二歳  一人称:ぼく
説明:三津草の街の愛玩用動物マスコット的な人物キャラクター。幼くして両親を亡くした水無月を伊真が育てた。水無月にとって伊真は母親のようなもので、「伊真母さん」と呼んで慕っている。活動時間は他の自警団員が水無月の事を慮って余り長くは無いが、彼も立派な自警団員として働き、その事に自覚と誇りを持っている。

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