馳せる想いは雪の如く
揺れる。鉄のレールの上を走る鉄の電車。鉄のレールを軋ませながら、ガタンゴトンと、いつもの聞き慣れた音を立てている。
普段と変わらぬ大学の帰路。時刻も変わらぬ五時少し前。大学に入学して一年にも満たないながらも、そのサイクルをすっかり「日常」の一部として消化している鈴木良は、ボンヤリと車窓から景色を眺めていた。
五時前だと言うのに外は薄暗く、車内には黄色い光の蛍光灯が輝くのは、今の時節が冬の只中にあり、丁度今頃から日が沈み始めるから。そして、いつもの見慣れた景色を銀色の羽毛で美しく彩る雪雲が空一面を覆い尽くしているから。
何かと忙しいわけでもない。だが、不思議と忙しなく踊る心。「師走」と言うのは、教師だけでなく、生徒の足も早くする魔力を持つらしい。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。昔は不規則に思えた無機質な騒音も、慣れると確りとしたリズムを刻む暖かなメロディーにも聞えるから、不思議な物だ。
不思議と言えば、車内灯に照らされながら見慣れぬ日常を眺める鈴木は今、一つの「不思議」を心の中に抱いていた。
「不思議」は、本当に不思議だ。一つの「不思議」が、降り積もる雪のように融けて消えたと思ったら、また新しい雪が降り積もるよう、「不思議」が一つ心に住まう。大きな「不思議」。小さな「不思議」。心惑わす「不思議」。心落ち着く「不思議」。根源は同じであろう「不思議」は、不思議と色々な顔を持って、人の心の中に居座り続ける。
今鈴木が抱く「不思議」が、一体どんな「不思議」なのか。今は解からない。明日になったら解かるかもしれないし、年老いて大往生の時を迎えたって解からないかもしれない。だからこそ、なのだろう。「不思議」と向き合って生きて行くのが楽しいのは。
チラと視線を正面に向けると、幼馴染みの腐れ縁、稲村晃司が静かに文庫本に目を通していた。
邪魔をするわけにはいかないだろう――するつもりもないが――。だから、胸に蟠る「不思議」を、稲村にぶつけるのではなく、ただ、一人ごちるようにして呟いていた。だからと言ってそれは何も、意識しての言葉ではなく、枯れ木から枯葉が落ちるように、自然に零れた言葉。「我知らず」、と言う奴だ。
呟きは、掻き消されそうな程に小さいながらも、確りと形を成して音と鳴った。
「糖分0パーセントの砂糖って、若い子に売れるかなァ……」
「ンなモン砂糖じゃねェよ」
突き放すような稲村の突っ込みに、鈴木は「あ、そうか」と合点を合わせた。
突っ込みを入れた事に気付いていないかのように、稲村はまた黙々と「実践!!言葉の凶器を飼い馴らせ!!」に読み耽っていった。
鈴木の「不思議」は、また一つ融けて水と成り何処かへ流れ、そして、また一つの「不思議」と言う名の雪を積もらせた。
「じゃァ、塩分0パーセントの塩はどうだろう?……」
ンなのは塩とは呼ばない。