飛び降り
著者:氷乃 滴

 俺は友達(仮にK田としておこう)と共に、神奈川県横浜市にあるU橋へと来ていた。
 趣味の心霊スポット巡りだ。
 このU橋と言うのは自殺の名所で、年の自殺者は二桁を越えていた。それが理由で高いフェンスが張られている。橋の下には地蔵が祭られている。
「別にどうと言う訳じゃないよな」とK田。
 K田は熊のような体格で、太い眉毛を持ったいわゆる豪傑だ。
「あぁ、そうだよな」俺は適当に相槌を打つと、今年購入したばかりの車を止め、降りる。
 懐中電灯を持ってK田も車の助手席から降りる。
「ちょっ、それ…………ありがとう」
 俺はK田から懐中電灯を借りると明かりを付け、腕時計を見る。
 1:57……か。
「あと3分だ」
「りょーかい」そう言ってK田は鞄の中から使い捨てカメラを出す。
 確か、ここには昔飛び降りた人たちの亡霊が出る……って噂だったな。
「お〜、ここから飛び降りたら車に轢かれる前に墜落死するな〜」
 見ると、K田がフェンスの隙間から下を覗きながら言った。
 その時……








 ぎゃぁぁぁぁぁ






「おい、今、何か聞こえなかったか?」
 俺が聞く。
「あ? 気のせいじゃないか?
 こんな所だからな」
 俺はその言葉に納得し、気にしないことにした。
 ふと、時計に目をやる。
 2:00
「おっ、時間だな」
「よし、写真でも撮るか」
 そう言うと俺たちは写真を二枚、撮った。
 俺がK田を撮ったものとK田が俺を撮ったものだ。
「よし、次はこの下にある地蔵……だな」
「あぁ」
 俺とK田は車に乗り込むと車を発進させた。
 視界に何か――腕のようなものが見えたような気がした。

「ここでも写真を撮るか」
 俺は車から降りて地蔵前に立った。
「そうだな〜」
 K田の軽い口調が車の中から聞こえてくる。
 K田が車の中から出てこない。俺はやや不信に思いながらも写真を撮る。
「気味の悪い地蔵だな……」
 俺は、そう呟くと車の中に入り、車を発進させた。
 そこに……














 橋の上から落ちてくる人影。








「!?
 おっ、おい!!」
 俺は驚いて後ろにいるはずのK田に声をかけた。











が、返事がない。






「!?
 K田!?」
 バックシートを見る。
 誰もいない。
「K田!?
 何処行った!?」
 パニックに陥る。
 前を見る。









 !?

 見なければよかった、と後悔した。
 車の窓ガラスにはザンバラ髪の男がぶら下がり、虚ろな目つきでこちらを見ていた。
 虚ろな目は黒く、既に意識が無いのは明白だった。
 いや、頭から流している血は如実に、その男の死を意味していた。
「……い……」死体が口を開いた。
「ひっ……」
「……こ……い……」
 そう、言っているように聞こえた。
「うっ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 車を発進させた。
 そして、そのまま走り続けた。

 気が付けば、県道18号線に出ていた。
 そしてそのまま、俺は家に帰った。



そしてK田は、姿を消した……。





《後日談》
 俺は、二度と、U橋に行くことは無かった。
 だから、あくまで噂でしかない。噂でしかないのだが、ここに記しておこうと思う。
 U橋の下にはそして、「○○○(俺の名前)、○○○」と呟く男の霊が出るらしい。
 その姿は……いや、あくまでただの噂だ。もしかしたらただの人違い(幽霊違い?)かもしれない。
 熊のような体格で、太い眉毛を持ったいわゆる豪傑なんて、何処にでも……それこそ昔飛び降りた人の中にいただろう……。

The end...

Return to Top-page    Return to Gift-Index    Rerurn to Novels-Index